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海と言えど、近場の海だ。遊び場として、学生の頃はよく世話になったものである。
ただ、その時も夜間に訪れたことはなかった。星空の下の海は、昼間の活発さを確り封印してくれていた。
エコバックを持ったまま海へと駆け込む。水温はそこまで低くない。しかし、濡れた肌を掠める風が、涼しさ以上の心地よさをくれた。
思わず笑顔を漏らしてしまう。少し遅れて並んだ柚も、小さく笑っていた。
「誰もいないの最高!」
「二人占めだね」
「ね!」
「温くなる前に食べるもの食べちゃおうか」
スーパーで膨らませた期待感を、掛け声で取り戻す。海に足を突っ込んだまま座った。
揺らぐ波が、パンツの裾を濡らす。柚も少し躊躇いがちに、しかし決心したのか砂を鳴らした。
半額のカットスイカ、真空パックのゆでとうもろこし。それからラムネを想い缶のサイダーを。冷やし中華やところてんにも目が眩んだが、さすがにそれらは諦めた。
滞在時間五分のスーパーで集めた夏メニューを出し、安全圏に並べた。
どれを先にとは決められず、ひとまず全て開封する。それでも決められず、ループの道を選んだ。因みに柚は、一番にスイカをとった。
「全部美味しい! すっごく遅いお夜食、楽しいね!」
何気ない一言に、柚の表情が小さく強ばる。原因を軽く漁ってみたところ、すぐにらしきものを捕まえた。
「あ、夜食本当は嫌だった!?」
「ううん、すっごい楽しい。ただ」
まぁ、一瞬で間違いを表明されたが。
言葉の続きを探すが、どこを漁っても見つからない。
「いつも厳しくしちゃってるでしょ。本当は結構辛いこと強いてるのかなって」
だが、答え合わせされ捜索は中止された。思いもよらない原因を前に、素直な感情を捉えてみる。
同居当初は取り決めがなく、私は不摂生を極めたような生活をしていた。そのせいでか不調と寄り添う私を見て、急に柚が宣言したのだ。これから同じ生活を送ってもらう、と。同じ生活への憧れもあり、私は簡単に同意した。すぐ後悔したけど。
脱落を求める私を、柚子は何度も繋ぎ止めてくれた。その厳しさあって、今は体を変えたかのように快調だ。
「まぁまだ時々はあるかな。でも私一人だったら続けれないし感謝してる!」
「それなら良いんだけど……」
月明かりの落ちた水面へ、うつ伏せの視線が注がれている。続けて見た頬に淡い喜びを見つけ、私の中で愛しさが膨れた。
「でも、うん。たまにこうやって羽目外す日もいいね。またやろっか」
「やる~! よし、じゃあそろそろ花火やろっ! 絶対綺麗だよ!」
水飛沫を飛ばし、立ちあがる。出番待ちしていた花火を出し、外装の切り込みに指をかけた。
「あ、涼海待って」
「どうしたの?」
「火付ける道具、買ってない」
「あぁ~!」
結局、開封されることはなかったが。
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