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「喜多川さんにとってEXTREMESとは?」
インタビュアーはエッジエンタープライズのアイドルくん。
五輪関連のアンバサダーを引っ張り出すあたり、この企画のプロデューサー西川くんの本気度が垣間見える。俺の最後の花道を飾る『序章』にかなり力を入れてくれているもよう。
なので俺はしっかりと背筋を伸ばし、年相応の紳士的な微笑みをキープしながら努めて丁寧に答える。
「ライフワークですね。僕を長年支えてくれたひとつの “柱” であることは間違いないです」
「主催者のロジャーさんは今大会を最後にEXから退く喜多川さんに向けて “彼無しではEXはここまで成長しなかった” と発信しておられますね」
「僕の方がEXへのチャレンジの中で成長させて貰ってるんですけどね」
EXの開催種目は時代に沿ってマイナーチェンジを繰り返したけれど、“帝王ロジャーの競技” であるハーフパイプはいつだって花形。イベントのトリを飾ってきた。俺が注目されたのもロジャーの謂わば引き立て役だったからだ。
2016年、初めてロジャーを越えた─────あの夜まで。
以来ずっと守ってきたEX絶対王者の称号は俺の誇り。
今大会がどうなるかは解らないけれど。
「最後のEXTREMESに賭ける意気込みを聞かせて頂けますか」
「いつも通りです。自分のベストを尽くして飛んで回って。僕にはそれしか出来ませんから」
「いつも通りの喜多川さんで」
「はい。それに僕はこの先もEXって言うイベントには関わり続けて行きますし、後輩達のチャレンジを応援したいって思ってます。最後と言っても最後じゃないんですよ」
「喜多川さんが伝説になる瞬間、楽しみにしてます」
伝説。
ロジャーは俺とタイチに負けて伝説になった。
王座を継承し、潔く去って行った大きな背中は美しかった。誰より輝いていた。
俺もそうありたいって思う。
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