2008

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   EX'08が終わった後も俺の北米単独ツアーにヨーコさんはくっついて来た。 「退職前に溜まりに溜まった有休使い切るの」  大手出版社に長年在籍していたからか何なのか、ヨーコさんはどこのゲレンデに行っても友人知人だらけで楽しそうで。英語も堪能で俺なんかよりずっとペラペラ。更にフランス語と何故かスウェーデン語まで勉強中だと言う。 「スウェーデン」 「大学時代の友達がストックホルムに住んでるのよ。国際結婚して。パートナーが広告代理店に勤めててね。今ちょっと面白い話を聞いてるから今後の為に」 「はあ」 「予定が一段落したら行ってみない? 北欧スウェーデン!」  突飛なことばかり次から次へと⋯⋯と言うのが正直な感想。  それにスウェーデン⋯⋯スウェーデン⋯⋯どこだっけ。リレハンメル五輪⋯⋯オスロ五輪を開催した国? いやあそこはノルウェーだわ。スウェーデン出身のライダーなら何人か知ってるけど、フィンランドとかデンマークとか『北欧』の括りや位置関係も曖昧だわ。  世界地理、真面目に勉強しとくべきだったなー。いやそうじゃなく。 「無理、予定外のことする余裕ないです」 「時間的に? 金銭的に? 気持ち的に?」 「全部!」 「うふふ♡実は既にJS航空に話はつけてあるの。タダで行けるわよー♡あっちに泊まるところも確保してるし旅行気分で行こうよ」  思えば当時からヨーコさんはその手腕の片鱗を覗かせていた。  俺がウェアやヘルメットに貼る企業エンブレム、その最大最適の活用法を心得ていたんだと思う。  こっちの不安を先回りで解消し、知らず知らずのうちに敷かれたレールへと誘導されていたのである。大人は怖いのだ。  いや、ヨーコさん、だな。ロックオンした相手と目的に猪突猛進するタイプのコワ〜イおねーさんだったのだ。
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