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「お肌ツヤツヤぴかぴか。炊き立ての新米みたいね⋯⋯」
飛行機の隣席から陽子さんがじーっと覗き込んでくる。
「ゆうべタイチがフェイスマッサージしてくれたー♡ハチミツ美容液のパックいいよー♡今度ヨーコさんにもプレゼントするー♡」
「ハチミツ⋯⋯プロポリスってやっぱりいいのかなあ。美容もだけど疲労回復ウンタラってよく聞くしねえ」
「ヨーコさんも俺やEXと共に年齢重ねてるんだから無理は禁物」
「ホントに。四十路過ぎたら体が重くて」
「四十路ってか五十路」
「うるさいわねっ」
笑いながら落とした視線の先にヨーコさんの小さな手。
整った綺麗な爪の形は変わらないけれど、皺や浮き出た血管、イヤイヤ “年輪” の滲む手の甲に一緒に重ねて来た年月を思う。
『日本なんて脱出しない? 私と一緒に』
今も覚えてる。
2008年、モントリオール。
モン・トランブランのEX会場で「喜多川くん!」と声を掛けて来たのは俺より小柄な日本人女性だった。
最初は誰だかわからなくて。首から下げたパスを見るにマスコミ関係者ってことは確かだけど、防寒対策バッチリの出立ちだと咄嗟に出て来なくて。
「えーと⋯⋯お疲れ様です⋯⋯?」
「覚えてないかなー。最近あんまり現場に出てないから。中谷陽子」
「スノマガの! 完全防備で誰だかわかりませんでした!」
「だって寒いんだもん!」
フードまですっぽり被ったダウンのロングコート、顔半分が埋まったマフラーにイヤーマフ。
寒さは俺のせいじゃないのに鼻の頭を赤くして訴えてくるヨーコさんは少女みたいだった。俺よりだいぶ年上なのは知ってたけどちょっとときめいた。
(あれは所謂ひとつのゲレンデマジックだったのかも知れない)
[月刊スノーマガジン]はその名の通り、ウィンタースポーツ専門、特にスキーとスノーボードを中心に扱う(1970年代から続く歴史ある)雑誌だ。W杯と世界選手権後、あと五輪前後は必ず取材にやって来て特集を組んでくれる。その昔は現役時代のヒロさんもお世話になったと聞く。
でもこの人から直接インタビューされたのはソルトレイクの頃だったと思う。それもそのはず名刺には『副編集長』と肩書きが付いていた。出世して俺のような小僧のインタビューなぞやっている暇はなかったんだな。
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