序章

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   夕暮れの空を見上げる。  鮮やかな橙色に染まる空には雲ひとつなく、まるでまっさらなキャンバスに絵の具を垂らしたように綺麗な色だった。  なのに、明日から一週間は天気が崩れるというのだから信じられない。  振り返ればそこのは同級生の女子が同じように空を見上げ、そして携帯を空にかざした。   「映えってやつだ」 「え、僕そんなことやるように見える?」  そう思われてたなんて、と怪訝げに顔を歪める彼女を見ながら思わず彼、野村優太は少し小馬鹿にしたように笑ってやった。  一学期の期末試験で無事に赤点を取った二人は泣く泣くこの夏休み初めの一週間を補習のために学校に通っていた。他の同級生やクラスメイト達は遊んだり、長期休暇を謳歌しているというのに、貴重な休みを一週間も無駄にしてしまったのは解せない。が、まぁ自業自得である。  テスト期間中に遊び呆けてしまったのは自分なのだから、母と祖母の口煩い文句を無視し、友人達の甘言に騙されて遊びまくって夜はすぐに寝て、なんてしなければよかったのだ。その友人達はご機嫌に試験を難なく平均点以上叩き出して今もなお遊んでいるのだから腹立たしい。あいつら、勉強してやがった……。   「補習も今日までだし、明日から遊び放題だねー」 「いやいや、課題あんじゃん……ワークとか、プリントとか……」    やったー、と嬉しそうに声を上げる彼女、漣葉の嬉しそうな笑顔を見ながら彼は嫌そうに現実を突きつけてやった。だがまぁ彼女はそんなこと気にもとめていない様子でケタケタと笑いながら後ろをついてくる。  こう適当に見えて提出物だけは律儀に期限を守って出してるから漣は内心点だけはよろしいのは知ってる。そういうとこだぞ、と睨めば彼女は小馬鹿にしたようにこちらを見てくる。  一年の時の初めての補習以来の赤点仲間であるし、中学も同じということから仲良くしているが、そういう意外なところで稼いでるところは好かない。なにしろ優太は提出物も過ぎてから出すか出さないかのどちらかで内心点も危ういのだ。自業自得である。  今日で補習も終わりということで二人は喜びのまま学食で昼食を取った後に制服のまま遊びまくった。  ゲームセンターでUFOキャッチャーやレーシングゲーム、対戦ゲームをやり尽くし、カラオケボックスで二、三時間歌いまくって、適当な店に入って買い物をしてみたりと、一週間の勉強へのストレス発散かのように寄り道を堪能して、二人はようやく帰路についている。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうもので、今ものんびりと駅から歩いているところだった。  
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