序章

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  「そういや、この辺りだよな」 「え。何が?」    思わず、といったように。思い出したように優太が漏らした言葉に漣は不思議そうに首を傾げる。優太はその言葉を聞きながら自分のポケットから携帯を取り出して「これこれ」と地元連中とグループを作ったチャットに乗っているニュースの記事を漣に見せる。彼女は肩口から顔を覗かせて画面を覗き込んでくる。  こいつの彼氏に殺されないか、俺。と不安になりながらも気にしていない彼女にちょっとだけドギマギする。が、あまりにも気にしてない彼女に苛立ちを覚えるのも事実である。ため息を漏らせば彼女は「これ何?」と聞いてきた。   「お前知らねぇのかよ。  中学の時にいた生活指導の山縁先生。二週間くらい前に姿鏡川で溺死してるところ発見されたんだってよ」 「ヤマセンが?  あの人、元水泳選手でしょ。ありえないって」 「いやいや。溺死って言っても別にあの川で死んだわけじゃないんだって。  殺されたのはどっかの家らしくて、死体を川に捨てられたんだと」    怖いよなー。といえば漣も不気味そうに身震いをしてみせた。わざとらしくて思わず呆れてしまうがそんな優太を見透かしたのか漣は彼の足元を軽く蹴る。軽いじゃれあいも、側から見れば仲の良い男女に見えるが、本人同士は案外そうじゃなかったりする。   「てか、地元のっていうか俺らの中学の関係者死にすぎだろ。  死んだり、行方不明になったりさ。物騒すぎて俺ん家、今ばあちゃん福岡から来てて門限うっせぇんだよなぁ」 「いいじゃん、うちはいつまでも放置だからね。心配してもらうってのは案外嬉しいもんだよ?」    あはは、と笑いながら彼女はなんてことない態度で歩いていく。  耳につく独特な蝉の鳴き声に思わず「そういえば」と声を漏らせばまた足を止めて彼女が振り返るのでその横を通って先へ進んでやる。   「これ、蜩だろ?  俺のイメージ、蜩って夏の終わりぐらいに鳴くって感じなんだけどさ」 「お前、ほんっとーに松沢先生の授業聞かないよね。いや、あれは雑談だけど。  あいつら秋のイメージ持たれやすいけど、七月から九月にかけてずっといるからね」    ほんと、うるさくて敵わない。と言いながら漣は酷く面倒臭そうな顔を浮かべながら手を顔の前で振る。なんだそのジェスチャーは、なんて思っていると彼女は優太の膝裏を蹴ってきた。  そのまま崩れ落ちれば指を差して笑ってくるので腹が立つ。そういうところがモテない原因じゃないのかお前、と言ってやりたい。だがしかし一部からはおモテになっている。中学じゃ目立たなかったが彼女は高校になって所謂一軍と呼ばれるグループにいるのだから世の中やっぱり顔だなと思ってしまう。    
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