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ない。
──何処にも、ない。
絶対合格できると確信出来るだけの自信があったわけじゃない。
でもこうなるとは、思ってもいなかった。いや、思いたくなかったの方が正しい。
どれだけ確認してもな見つからない、私の番号を最後にもう一度だけ探す。
周りが歓喜に包まれてる中、ぽつんと。世界に置いてけぼりにされた様な気分だった。
大事に持っていた手の中の受験票が私みたいにぐちゃっと潰れる。消えてしまいたいと思うけど、私も、受験票も。ぐちゃぐちゃになったまま、ここにあった。
喉と目の奥が熱くなって。胸がきゅうっとなる。
だけど泣かない。それが私のしょうもない最後のプライドだった。
でもやっぱり、周りの幸せいっぱいの空気は重くて苦しくて。惨めにさせられる。
友達が遊んでいる中で、毎日机に齧り付いて勉強した。
家族皆で何処に行っただとか。何をしただとか。
毎年毎年、長い休みが来る度に。皆の話を羨ましいと思いながら、聞いていた。
「一花ちゃんは何処か行った?」
無邪気で浮かれた質問に何度首を横に振っただろう。
何をしていたのか聞かれて、塾で勉強していたとしか言えない自分に、何度虚しさを感じただろう。
そんなの可哀想と。悪気もなく投げられた言葉に、何度傷付いただろう。
何よりあれだけ我慢して。全部捨てて勉強に費やしてきたのに。
不合格。
そんな文字しか手に入らなかった自分が恥ずかしい。
ゆっくり手の力を抜き、くしゃくしゃになった受験票を鞄にしまう。もうここに居たくないと、隣に立つお母さんを呼ぼうとして。やめた。
信じられない。信じたくない。
そんな顔をして、数字が並んだ白い紙の上を凝視しているお母さん。他の人が見たら、そっくりの親子が同じ表情で、何時までも立ち尽くしている姿は滑稽に映ったに違いない。
ちらりとそんな事が頭の隅に浮かべば、もっとこの場所にはいたくなくなる。
「……お母さん」
早く帰ろう。
そんな思いでお母さんを呼ぶ。
前を見ていた視線が、私へと移って、不自然なくらい自然に逸らされた。
「……帰ろっか」
無理に作られたのだと分かる笑顔で、お母さんが私の背を押す。いつもより込められた力が辛くて。うん、と小さく頷くのが精いっぱいだった。
無言のまま、早く歩くお母さんの背を追う。
私と同じで此処から早く離れたいんだと、お母さんの背中が語っていた。
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