丁夜に煙る

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 馬鹿みたいな暑さだと、本当に馬鹿になってしまいそうだ。  部屋のエアコンが故障してしまったことが、青年にとっての不幸だった。すぐに業者に問い合わせたところ、修理の予約が立て込んでおり、最短でも一週間後になるということだった。一週間も部屋が蒸し風呂になるのは、なかなかに手痛い損失だ。  エアコン至上主義である彼は扇風機を持っていない。もはやどうすることもできなかった。今日が土曜であることがせめてもの幸いか。明日にでも家電製品を見に行こうと決めた。それでも、今夜だけは生身でこの暑さを乗り切らなければならない。  夏の寝苦しさを甘く見ていた。思っていたよりもストレスがかかる。半裸になって濡れタオルを乗せれば何とかなると考えたのだが、数分もしないうちに蒸し暑さが現実を彼に知らしめた。  生ぬるくなったタオルは不快感に拍車をかける。ならばとうちわを取り出したものの、扇いだところでぬるい空気はぬるい風となるばかりであった。むしろ腕を動かしたことにより、余計に体温が上がる。  暑い。  日本の蒸し暑さは異常だ。熱源たる太陽が隠れているのにこの気温はどう考えてもおかしい。青年は世界の理不尽に怒りを抱いた。しかしその感情もまた、さらなる熱源となるばかりであった。ああもう、どうあがいても暑い。  喉が渇いた。ただ寝ているだけだというのに、何が悲しくて汗をかかなければならないのか。横になっているだけでも身体は水分を欲していた。のろのろとした足取りで冷蔵庫に向かう。熱帯夜は人をゾンビへと変える。  コップに氷を投入しようとして、すっかりそれを切らしていたことを思い出す。あまりにも暑いもので、昼の間にすべて使い切ってしまったのだ。新たな氷は明日にならねばできないだろう。おまけに麦茶も同様に空にしてしまい、夕方新しいものを入れたばかり。まだまだ冷えてはいないはずだ。何もかも夏が悪いのだ。  ぬるい麦茶を胃に流し込む。ああ駄目だ、全然潤った気がしない! 「ああ」  時刻は午前一時。この調子では、まだまだ眠るのに手こずりそうだ。  だらだら暑さに悶えるよりも、コンビニに行って何か冷たいものを買おう。 「……行くか」  そうして、青年は財布に手を伸ばした。
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