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不運なことに、その老人は熟練のうなぎ職人だった。「このクソダヌキが、日本人相手にうなぎで化かそうなんざいい度胸だ」と激昂し、化け狸をこてんぱんにしたのである。この時たぬきは本気で死を覚悟した。どちらが妖怪か分かったものではない。
満身創痍のたぬきに、老人はどうせなら本物の腕を身につけろと言った。かくして化け狸はうなぎ職人の弟子となり、老人の世話になることになった。
老人は厳しいながらも愛のある指導をしてくれた。初めは何度も逃げだそうとしていたたぬきも、いつしか真剣に取り組むようになった。堅物の師匠とおちゃらけた弟子。ふたりが営むうなぎ屋は、多くの人に愛された。
だが、そんな時間も永遠には続かない。老人はやがて亡くなってしまい、店は潰れてしまった。
しかし、その技術は途絶えていない。老人が生きた証は、三百年を生きる化け狸に受け継がれたのだ。
串打ち三年、裂き八年、焼き一生。
老人の技術を引き継いだたぬきは、時々こうして人々に絶品のうなぎを振る舞い、ぽんぽこ金を稼いでは現代社会でしたたかに生きているのである。
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