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明かりの少ない夜道は、むっとした熱気で満ち溢れている。それでも時折弱い風が吹く分、部屋にいるよりは幾分ましだった。
開けた道の左手は畑になっており、青臭い香りと虫の鳴き声が流れてくる。鈴のような音色の中に、時折クビキリギスの「ジー……」という鳴き声が混ざる。この声を聞くと夏の夜という感じがするので、青年は結構気に入っていた。
夜空を見上げると、色の濃い満月が輝いている。黄金色というよりは銅色という表現が相応しい。それを眺めていると、何やら不思議な気分になってくる。妖しい月光が血をぞわりと刺激するようで、今夜は何か事件が起こるかもしれないと感じさせた。
確か、月の色が変わって見えるのは大気の影響だったか。大昔の人からすれば、さぞかし神秘的かつ恐ろしいものだっただろう。その妖しげな輝きに魅了され、正気を失う者もいたかもしれない。
「うわ!」
ぐしゃり、と嫌な感触がして悲鳴を上げる。おそらく蝉の死骸か、はたまたその抜け殻か。どうやら自分も月に惑わされてしまったようだ。肩をすくめて青年は歩き続ける。
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