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遊歩道を外れ、雑草に混ざり、木々を抜けたその先にそれはあった。
開けた草むらの中央に、屋台が立っている。白いのれんには「うなぎ」と書かれており、「り」や「こ」と書かれた赤い提灯が並んでいる。その奥からは、やはり日本人を惹き付けるあの香りが立ちこめていた。
思わず目を疑う。焼き鳥ではなく、うなぎの屋台? しかもこんな場所で? 営業許可は取っているのだろうか。
「一体、どうなってるんだ……?」
銅色の満月の下、提灯が妖しい雰囲気を醸し出している。深夜の朧気な雰囲気と相まって、まるで異世界に迷い込んでしまったようだ。自分は寝ぼけているのだろうか。きつねにでもつままれたような気分で、しげしげとそれを見つめる。
香ばしい香りに、腹が一層大きな音を立てた。こんな深夜に間近でうなぎの煙を嗅がされては、たまったものではない。どう考えても怪しいのだが、その引力はまさしく今夜の月のようである。
入ってみるべきか、しかしあまりにも怪しすぎる。理性と欲望が頭の中で争う。財布にはそこそこの金がある。それも、余裕を持ってうなぎを食べられるほどの金額が。ごくりと唾を呑む。
こんな夜に食べるうなぎは、どれほど旨いのだろう。
強烈な一撃が理性をノックアウトする。
かくして、青年はのれんをくぐったのだった。
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