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そして、ついにその時が訪れる。
「へい、お待ちっ!」
「うおお……!」
真っ白な米の上に乗った、大きな二きれのうなぎ。もうもうと上がる湯気がその香りを惜しむことなく運ぶ。あれほど早く食べたかったのに、いざ前にすると青年は尻込みしていた。これを食べれば、はたして自分はどうなってしまうのだろう?
「い、いただきます」
箸がするりと身を通っていく。震える手で、そっと米とうなぎを口へと運んだ。
「うっ……」
香ばしく焼かれた表面、ふわりとした内部。ガツンと広がる薫香と、心をとろかすような脂の甘味。それはまるで、悪魔と天使のような対比。焦げ目のわずかな苦味を備えた肉厚な身がふっくらとほぐれ、その旨味を解き放つ。それは、青年が今まで食べてきた中で、最も旨いうなぎであった。深夜にうなぎを食べているという背徳感が、さらにその旨さに拍車をかける。
「うおおお……っ!!」
衝動的にうな丼をかきこむ。一度食べてしまえばもう止まらない。とろける身の甘味とコクのあるタレの塩気。それが米と合わさるのだから、本当に恐ろしいことだ。タレでうなぎが旨くなっているのか、うなぎでタレが旨くなっているのか。馬鹿になった頭では、どちらなのか分からなかった。もしかしたら両方なのかもしれない。もう旨ければ何だっていいのだ。
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