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(3)
その言葉通り、エマは眠った。ぐっすり眠った。こんこんとひたすら眠り続けて……。
(ふわあ、よく寝た)
寝台の上で大きなあくびをした。いくらエマがポンコツといえど、公爵家の人間である。寝過ごしたまま放置されるということは基本的にない。ということは、今部屋の中に誰もいないのは当主である父の判断によるものなのだろう。
(とりあえず、ベルを鳴らしてひとを呼んでっと。ずいぶんゆっくり眠らせてもらえたみたいね。おかげで日頃の疲れがすっかりとれたわ)
体の隅々に力がみなぎっている。こんな風にすっきり目が覚めたのは、どれくらいぶりだろうか。エマが寝台の上でぼんやり考えていると、バタバタと足音を立てて誰かが部屋に飛び込んできた。
(足音を立てて? 公爵家の人間ともあろうものが?)
「エマ!」
「お嬢さま!」
呆然とするエマにぎゅうぎゅうと抱きつくのは初老のおっさんと、見目麗しい青年。
「え、ど、どなたですか?」
「エマ、忘れてしまったか。お父さまだぞ」
「うちのお父さまはイケメンであって、イケオジではなかったはずですが……」
「お嬢さま、あんなにぐーすか寝ていたら、ご当主さまもお年を召されます」
「へ、えーと?」
「あなたの従者ですよ」
「あの小さくて可愛い、私のリーバイくん……? うそでしょう。あんなに可愛い男の子が謎のイケメンになってるー! 目が潰れるー」
そのまま両親だけでなく使用人達も一緒にお祭りモードに突入した姿を見て、エマはようやっと気がついた。自分がどうやら寝過ぎてしまったらしいことに。
「えーと、ごめんなさいね。一応確認なのだけれど、私が眠ってからだいたいどれくらいたったのかしら?」
「本日で15年7ヶ月と9日でございます」
リーバイの言葉に、エマは天を仰ぐ。
(マジですか……?)
確かにぐっすり眠ってみたいとは思っていた。誰にも邪魔をされずに惰眠をむさぼれるなら最高だと。けれどまさか15年も眠り続けることになるなんて、あのときのエマは想像もしていなかったのだ。
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