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「何を気楽に。そもそもここから魔の森までどれくらいかかると……」 「ほら、着いたよ」 「な、なにを言っている」 「だから、ここが魔の森だってば」 「そんな、複数人を連れての空間移動なんて、高位の宮廷魔術師でも無理です」  信じられないと義妹が目を丸くする。 「それで、あれが最近大暴れしている魔物だね。さあ、いっちょドカンと行きますか」  エマが軽く何かを投げるような動作をすると、魔物のすぐそばの岩が粉々になって吹き飛ぶ。 「惜しい、またやっちゃった」 「ど、どういうことだ! 君は魔法の呪文詠唱だけは完璧だったが、魔力が少なすぎてほとんど発動しなかったはずでは!」 「ああ、うん、それなんだけどねえ。起きたら、するすると出るようになってたの。今まで途中で詰まっていただけだったみたい」 「魔力の流れを配水管か何かのように言わないでくれ……」  とんでもない才能を目の当たりにして、国王陛下は涙目だ。 「せっかく願い事を書くなら、どっかんどっかん魔法を使いたいとか、憧れだった冒険者になりたいとかいろいろ書いたのよ。それも合わせて願いを叶えてもらっていたみたいで……」 「なんてことだ」  規格外過ぎる祝福の大盤振る舞いに、王妃となった義妹も苦笑している。 「このような力、他人にほいほい明かすものではない。俺以外の人間が見ていたら、問答無用で政略結婚させて囲い、次世代となる子どもを次々産まされるぞ」 「家畜扱い! 貴族社会、マジで怖い……。あなたたちのことは信用しているし、何より年齢的におばさんだから大丈夫かなって思ってたんだけど」 「自分の力がいかに規格外かは、知っておくべきだ」 「えー、でも私に釣り合う年齢の男性なんて、みんな訳ありでしょ?」 「考えてみろ。お前はこの15年間眠り続けていた。見た目も変化がなく、16歳のままだ。今のお前は、まさに結婚適齢期なんだよ」 「助けて、冗談キツいって」  国王の元婚約者、現王妃の姉、さらにこんなに強大な魔力を秘めているのだ。自由に生きられるはずがない。 「よし、私決めたわ。政治的な縁談はいらないから、死んだってことにしてくれない? このまま冒険者になって、隣国のダンジョンで武者修行するわ」 「神からの祝福を受けた魔力フルスロットル、天然ノーコン令嬢を、平民の冒険者として隣国に出せるわけないだろうが!」 「あ、やっぱり」  舌をぺろりと出して大笑いするエマの隣で、従者だけがひとり静かに渋い顔をしていた。
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