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「そうか?」
本当はその“独身”に満足してるけど、それを正直に言うと喧嘩を売ってると思われそうで翔太は表情ひとつ変えずに聞き返した。
「何しても自由じゃん。ガミガミ言ってくる女もいねーし。金もかからないし」
「朋也だって毎日家が賑やかでいいじゃん」
翔太の言葉に朋也は小さく頷いたが、すぐに「いや」と訂正した。
「寂しくはないけど、たまに1人になりたくなるんだよ。ほら、翔太だって彼女できてもずっとベタベタしてるタイプじゃないじゃん」
朋也に指摘されて過去に付き合っていた2人の彼女達を思い浮かべる。確かに翔太は、四六時中彼氏と行動したいと考える彼女達と違いたまには1人になりたいと思うことが多いタイプだった。直接的な別れた原因はそれだけじゃないとはいえ、今思えばそんな価値観の違いやそれに耐えられなかったことが別れる原因になったのかもしれない。
「少し当たってるかも」
「ほらな。夫婦生活って最初は楽しそうに見えたけどなんか疲れるんだよな」
そう言って伸びをする朋也は心の底からダルそうで翔太はもし朋也が今も独身だったらどうなっていただろうと考えてみた。
朋也のことだから真面目なのは仕事をしている時だけでプライベートでは金遣いは荒いだろうし、体力お化けの彼は夜勤明けでも昼から酒を飲んだりしていただろう。そんな彼が今こうやって昔より少しだけしっかりしてきたのは真菜さんのお陰なんじゃないかと思う。
やっぱり、朋也にとって真菜さんはなくてはならない存在だ。
「朋也」
「ん?」
「はやく帰って真菜さんに謝りなよ」
「なんだよ、翔太にしては真面目だな」
ムッとする彼に対し翔太は「うるせーな」と前置きして続けた。
「お前はちゃんと好きな人と結ばれたんだから幸せになって欲しいんだよ」
その言葉を聞いて朋也は一瞬きょとんとした顔をした。だが、すぐにニヤリと意地悪な笑みを浮かべて言った。
「翔太、お前またあの事務の子に告って振られたの?」
「彼氏持ちの女に告る訳ねーだろ。ってか、俺の話は良いからはやく帰れよ」
翔太がそう言って朋也を追い払うと彼は「はいはい分かりました」とダルそうに返事をしながら席から立ち上がると財布からお札を抜き取り置いた。
「翔太、お前もちゃんと幸せになれよ」
「そんなこと言われなくても分かってるよ」
ムッとした顔で翔太がそう返すと、彼はダルそうにファミレスを後にした。きっと、今の朋也ならちゃんと真菜さんと仲直りできるはずだろう。
翔太はどこかほっとした気持ちで飲みかけのアイスコーヒーに口をつけた。
叶わないと分かっているこの恋がいつ冷めるかは分からない。多分、当分はこのままだと思う。それでも今はこの恋を続けても良い気がした。
この恋が終わった時、きっと何か得るものがある。そんな気がした。
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