第二章 夢と現実

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「佐原さん、再婚するんですか?」 「うん。今度こそ私も念願の親になれるんだ」 「親ってまさか…」  デキ婚とはあえて言わなかった。流石の佐原桃菜も良い歳した大人だしその辺りの計画はちゃんと立てているだろう。  だが、佐原桃菜は「やだなぁ」とムッとした表情を浮かべた。 「岡崎、今私がデキ婚するって思ったでしょ?」 「はい。でも、少しだけですよ?佐原さんならそう言うこともあり得そうかなって」  正直に思っていたことを言うと佐原桃菜は首をブンブンと左右に振った。 「違うから!私の彼氏はシングルファザーで前妻との間に子供が2人いてわたしはその子達の親になる予定なの」 「へぇ」  シングルファザーばかりと付き合っていたのは本当だったのか、と思いながら返すと佐原桃菜はパスタをフォークで巻きながら「私さ」と続けた。 「子供は好きなんだけど、子供は産めない体なんだよね」 「そうなんですか?」 「うん。それが原因で前の夫とは喧嘩になって離婚してそこからずっと知り合いにシングルファザーばかり紹介してもらってた」 「へぇ」  翔太がそう返してパスタを口に運ぶと、佐原桃菜は聞いてもいないのに勝手に今まで出会ってきたシングルファザーについて語りだした。  妻に浮気されてシングルファザーになった小学生の三兄弟を育てる年上の男性。妻が蒸発してしまったことが原因でまだ1歳の娘を1人で育てる同い年の男性。他にも妻が事故死した男性とか価値観の違いが原因して離婚した男性だとか歴代の紹介された男がとにかく何が理由で離婚したかについて佐原桃菜はこれでもかと言うくらい語ってきた。話のほとんどが妻側に原因があって離婚した男性ばかりだったけどなかには、ダブル不倫なんてものもあって翔太は何とも言えない気持ちになった。 「色々会ってきたんですね」 「うん、でも、今幸せだよ?夢が叶うんだもん」 「でも、配偶者や子供がいると自分の時間がなくなったりしませんか?」  翔太がそう聞くと、佐原桃菜は「そうだねぇ」と言いながら小さく頷いた。 「それを我慢しても幸せって思えるかそう思えないかは人によるんじゃないかな」  佐原桃菜はそう言うと、翔太の方を見てニコッと笑った。 「岡崎、あんた恋愛には興味あるけど結婚願望はないでしょ?」 「なんで分かったんですか?」  図星だった。普段チャラチャラしてそうな彼女も意外と人のことを見ているようだ。 「見てたら分かるよ。だって、あんたチャラいもん」 「それは佐原さんも同じだと思いますけど」 「酷いなぁ。これからは人の親になるからもう少しおしとやかに行こうと思ってたのに」  佐原桃菜はそう言うと、寂しそうに小さく笑みを浮かべた。 「私さ、昔岡崎のことちょっと気になってた時期があったんだよね。あんたがこっちに転院してきた頃ね。でも、あんたは青野美鈴とばかり仲良くしてたし最初は2人が付き合ってんのかと思ってた」  佐原桃菜はそう言い切ると一呼吸置いて続けた。 「でも、2人を見てるうちにそれは岡崎の片思いだって気づいた。あと、あんたが趣味を優先する人間で恋愛には興味あるけど結婚までは興味ないこともね」 「なんかすいません」  いきなりの告白にどう返せばいいか分からなくて謝ると佐原桃菜は「もう昔のことじゃん」と言ってニッと笑った。 「だって、岡崎は私に恋愛感情もったことも気になってたこともないでしょ?チャラそうに見えて意外と真面目なんだから」 「まぁそうですね。俺も佐原さんのことチャラい先輩としか見てなかったです」  お互い「チャラい」と言い合いながら話す自分達は周りから見たらカップルに見えてもおかしくない。でも、翔太は本当に佐原桃菜には恋愛感情を持ったことがなかったし、彼女もそれはもう過去の話として話しているのは話を聞いていて分かった。  そして、今日彼女が自分をご飯に誘ってきた理由もなんとなく察しがついた。 「佐原さん、俺のこと元気付けてくれたんですよね」  翔太がそう言うと佐原桃菜は「よく分かったねー」とら言いながら笑みを浮かべた。 「岡崎も青野美鈴も分かりやすいタイプだからあんたが失恋したのすぐに分かっちゃったんだよね。それが原因なのかあんた元気なさそうだったし」  そう言ってニヤニヤする佐原桃菜はやっぱりチャラい先輩であることには変わりなかったけど、翔太より何倍も大人に見えた。彼女ならいい親になるに違いない。 「あ、でも、再婚してからも仕事は続けるから迷惑かけると思うけどよろしくね」  そう言って笑みを浮かべる佐原桃菜は本当に幸せそうで翔太は彼女の幸せをそっと願った。
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