最終章 この恋の終わりのその先に

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 その日の夜、残業を終えて更衣室に戻りスマホを見ると朋也からTALKが来ていた。 『翔太、今日俺家帰れないから少しだけ晩御飯付き合ってくれないか?』 『別に良いけど、俺今日は車だから居酒屋以外にしてくれよ』  翔太がそう返信をすると、朋也は「助かります」という文字と共に御世辞にも可愛いとは言えないクマのキャラクターが連続でお辞儀をする変なスタンプを送ってきた。 「どうせまた喧嘩でもしたんだろうな」  朋也とのトーク画面にそう問いかけてみたが彼からの返事は返ってこなかった。  朋也に指定されたファミレスに行くと、コーラを飲みながらスマホを眺める朋也がいた。朋也も今日は仕事だったのか疲れきった様子の彼に翔太は「お疲れ」と声をかけた。 「お疲れ。急に呼び出してごめんな」  そう言って待ってましたとばかりにメニューを広げる朋也はこれっぽっちも「ごめん」なんて思ってないだろうなと翔太は思った。  前に美鈴が女友達は結婚したり子供ができたりしたら付き合いが悪くなったと嘆いていたことがあったが、男同士だとそういうことあまりない気がする。むしろ、同じ職業と言うこともあってか朋也と会う回数が前より増えた気がする。  とは言っても話の大半は、妻に対する愚痴だったがこうやって変わらず仲良くしてくれる彼のことが翔太はありがたかった。  今は休みが合えばたまにご飯に行ったりしてる美鈴だってそのうち自分より彼氏を優先するようになるに決まってる。ただ、彼女の場合もまた彼氏の愚痴を自分に言ってきて男心を聞き出そうとするからもしかしたらそんなに変わらないかも気もした。むしろ、そうであって欲しいと思う翔太がいた。  店員に一通りメニューを注文すると、朋也が口を開いた。 「今日仕事行く前に真菜と喧嘩したから家帰れねーんだよ」 「それは分かってるって。いつものことだろ?」  そう返すと、朋也は「やっぱりバレてたよな」と小さく笑った。どうやら今日も日付けが変わるまで朋也達夫婦の喧嘩に付き合わされることになりそうだ。  朋也が真菜さんと喧嘩した原因は、キャバクラに行ったことがバレてしまったことらしい。  真菜さんと付き合う前から朋也は夜の街で遊ぶことが多いタイプだった。だから、彼らしいと言えば彼らしいが真菜さんはそれを許せなかったらしい。 「バレた理由ってやっぱり香水の匂いとか?」  翔太が聞くと、朋也は首を左右に振るとポケットから財布を出しながら言った。 「原因はこれ」  そう言って机に置かれたのは黒を基調としたシンプルなメンバーズカードだった。ただ、メンバーズカードと言っても店名は一切記載されておらず文字も「Members Card」という白い明朝体の文字だけだった。 「これ店名書いてないけどそんなんでバレんの?」  素朴な疑問だった。普通ならどこの店ものか分かるようにするために店名の記載が必ずあるはずだ。それに客側も店名の記載がなければどこのカードか分からなくて困るだろう。  だが、そんな翔太の考えとは少し違うのが夜の街の決まりだったようで朋也は「バレるバレる」と言うと続けた。 「キャバクラとか風俗のメンバーズカードって店名書いてないんだよ」 「彼女や奥さんバレないようにするためとか?」 「まぁそうだろうな」 「ふーん」  翔太が適当に相槌を打つと朋也は「独身のお前は気楽で良いよな」と言いながらフライドポテトに手を伸ばした。
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