第一章 半透明

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「それにそのうち子供ができたりしたらそっちの話題ばっか話すようになるのかなって思って」 「え?何?子供ができたらって?」  そう言って美鈴は首を横に傾けた。なんでそうなるの、とでも言いたげな顔をして翔太を見る美鈴を見て翔太は少し戸惑った。  結婚したら愛する人との間に子供が欲しいと思うのは当たり前のことじゃないか、と思う。最近は、子供を持たない夫婦も増えているからもしかしたら美鈴もそうなのかもしれない。  そう思って翔太が言葉を探していると美鈴が「あーそういえば翔太には言ってなかったっけ?」と口を開いた。 「言ってなかったって何が?」 「彼は子持ちなんだ。あ、前妻との子ね」  それを聞いて忘れかけていた記憶が蘇る。そういえば前に美鈴がそんなことを言ってことがあったっけ、と思う。月に何度か翔太に「私っておばさん?」と確認してくることがあったけどそれはそういう意味か、と翔太は1人で納得した。  そして、彼が子持ちであることをナチュラルに言った美鈴はそのことについては特に何も気にしてなさそうに見えた。多分、前妻への嫉妬はデート内容に関することだけのようだ。 「そっか。でも、ドラマとかでよく再婚したら血の繋がらない兄弟が増えたみたいな話あるじゃん。そういのはないの?」  話の流れから軽い気持ちでそう聞いてみると、彼女は「あーそのことなんだけど」と呟くと一瞬周りをきょろきょろと見渡した。そして、いつもより少し声のボリュームを下げて言った。 「私と彼は親がそれぞれ不倫で離婚してるんだけど、私は異父兄弟がいて彼は異母兄弟がいるんだよね。この前、お互いサラッと話しただけだから詳しいことは知らないんだけどさ」 「うん」  美鈴の親が離婚していることは昔聞いたことがあったけど、彼氏の親もそうだったのかと知り翔太は少しびっくりした。  でも、イマドキ離婚する人は多いし異母兄弟や異父兄弟がいることも決して珍しくはないだろう。 「まぁ詳しいことを知ったところで私も彼もそれぞれ血の繋がらない兄弟に会う気はないんだよね。だって、自分の片親とその不倫相手の子だよ?」 それだと確かに会いたくないかもしれない、と思って翔太は頷いた。その異母兄弟や異父兄弟だって知らない方が幸せなことだってあるだろう。 「あと、こんなこと言うのもアレだけど、子供の立場からしたらなんか気持ち悪くない?」 美鈴はそう言ってまた周りをきょろきょろと見た。話の内容が内容なだけあってあまり人に聞かれたくなかったのだろう。 美鈴は確認が終わると、話を続けた。 「他にも私も彼も1人にじっくり向き合っていきたいって考えが一致したとか体調の変化にすぐ気づいてあげられるとか経済的に余裕があった方が良いとか」 「うん」 相槌をしながら「なるほどな」と思う。 翔太は大人になってからも兄や姉と仲が良いから2人がいない人生なんて考えられなかった。でも、美鈴やその彼氏が考えていることも全部一理あるなと思う。 「あと、その子…湊君って言うんだけど、今まで彼に気を遣ってることが多かったみたいだからこれからは年相応に無邪気に振る舞って欲しいなとか。まぁ理由は他にも色々あるんだけど、これだけは彼と婚約が決まってすぐに話し合ってたんだ」 「へー、美鈴も意外と真面目に考えてんだな」 「それ親友にも同じこと言われた」  そう言ってムッとする顔の美鈴を見て翔太は周りから見た彼女もやっぱりそうなんだなと思う。普段の彼女は、大雑把なところが多いけどこういうことについてはちゃんと真面目に考えているらしい。 「美鈴のことだから連れ子とかいても放置してウェディングハイとかになってるのかと思った」 「私が湊君のことを差し置いて自分だけ幸せになろうとか思ってる訳ないじゃん。そりゃ、今でも香奈さんにはすごい嫉妬してるけど」 「なんで?」  香奈さんというのが前妻の名前なのだろう。  少し興奮気味に話す美鈴の様子から故人とはいえ、相当ライバル心があるんだなと翔太は思った。 「香奈さんめっちゃ美人なんだよ!ゆるふわロングのザ・女の子って感じの!」  そう言って美鈴は最近人気の可愛い顔立ちをした若手女優の名前をあげてその女優に似ている、と言った。確かに可愛くて綺麗な人だったのかもしれない。  そして、彼氏は自分達と同世代の人気アイドルグループの人気メンバーに似てるのだと美鈴は聞いてもいない情報を丁寧に話してくれた。 「それは絵に描いたような美男美女カップルだね」 「でしょ?」  美鈴はそう言って水を飲んだ。これがもし飲み屋だったらビールを飲んでいるに違いない。  そうなると、流石の翔太も少し大変だからここが食堂であることに翔太は感謝した。 「それにさ、私がウェディングハイなんてなる訳ないじゃん」 「なんで?」 「だって、彼何も言ってくれないし」 「へー、美鈴の彼氏って草食系なんだ」  純粋にイマドキ大人しい男子って多いよなと思って返すと、彼女は首を左右に振り「そんなんじゃないよ」と返すと続けた。 「多分、私に魅力がないからだと思う」 「え?」  思わず聞き返した翔太に対し彼女は財布から500円玉を1枚だした。 「話すと長くなるからご飯買ってきて。日替わり定食」 「了解」  翔太はそう返して500円玉を受け取った。  美鈴は彼氏と何がある度に翔太に相談してくることが多かった。  美鈴曰く翔太は恋愛経とかよく知ってそうに見えるから、らしい。好きな彼女に頼りにされて嬉しい反面、ずっと片思いをしていて今も好きな人に恋愛相談をされるのはすごく複雑な気分だった。  やっぱり翔太は、彩未の言っていた通り“当て馬キャラ”なのかもしれない。
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