変わらない毎日

2/8
前へ
/153ページ
次へ
ゆうちゃんのお弁当箱は大きい。 おかずもたくさん入るから品数も多くなる。正直、大変だと思ってしまう時もあるけど、ゆうちゃんが蓋を開けたとき、喜んで欲しいからこだわって作ってる。 結婚してから毎日…つわりや出産直後とか、作れなかった時期もあるけど基本的には毎朝手作りしている。 「花乃…。ごめん。」 帰ってきたゆうちゃんがただいまをいう間もなく謝ってきた。 「…どうしたの?」 私が訊くとゆうちゃんはバックからお弁当箱を取り出した。蓋が割れてヒビが入っていた。 「今朝落として割れちゃったんだ。その時は気づかなかったんだけど、昼休憩でバックから出したら汁が漏れてておかしいなって思ったら…。」 「そうだったんだ。でもそろそろ買い替えようと思ってたし、明日買ってくるね。」 「ごめんな。時間があればオレが買ってくるんだけど。」 「ううん、詰めやすさとか仕切りがついてるかとか見てから買いたいし。」 私が言うと 「確かに、作ってくれる花乃が選んだ方がいいな!」 ゆうちゃんが言った。 このお弁当箱、パッキンが外しやすくなってて洗う時に楽だから気に入ってたんだけど。 同じ物があればいいけど、思い切ってまったく違うタイプでもいいかな…。 「今度は2段とかにする?」 「いや、一段のやつがいいかな。」 「了解!」 私は答えた。 ゆうちゃんは同じ物をずっと使いたがる。 学生時代も大きくて平べったい一段のお弁当だった。 みんなに囲まれて楽しそうに食べてた。 ……。 また心に不快な黒い霧みたいなものが広がる。 前は綾ちゃんへの気持ちにどう対処していたのか思い出せない。 完全な過去だと思っていたから。 思い出の中にいる人だから安心できたんだ。 でも今はこの街にいて、いつまたゆうちゃんと再会するかわからない。 今まで通り過ごそうとする私に、もう1人の私が「忘れるな」と言ってるみたい。 心が平安になりかけるとすぐに不安な思いを焚き付けられる。
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

263人が本棚に入れています
本棚に追加