変わらない毎日

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お店を出ると、晴れていたはずの空が曇っていて、遠くで雷鳴が聞こえた。 雨は夕方からのはず…。 とりあえず早足で帰る。 自転車か車で来ればよかった。 天気が良かったから、ウォーキングついでになんて徒歩で来てしまった。 風が強く吹き始めて ボタ、ボタ…。 いきなり大粒の雨。 お願い!降らないで!という私の願いも虚しく ザーーーーー! 一気に土砂降りになった。 どうしよう、お店に戻ろうか、そのまま走って帰ろうか、それか違うお店で雨宿り…? さっきのお店で買ったお弁当箱を抱えながらすでに中までびしょ濡れの靴で走っていると雨音の中に車のクラクションと声がした。 「岩瀬さん!」 声が聞こえた車道を見ると車に乗った山部くんだった。 「乗って!」 無我夢中で駆け寄り助手席のドアを開けようとしたら先に山部くんが運転席から身を乗り出して長い腕を伸ばしドアを開けてくれた。 私は遠慮なく乗り込んだ。 「ありがとう!山部くん。」 「急に降ってきたねー!」 山部くんがニカっと笑った。 「ごめんねこの車、タオルとか気の利いたものがなくてさ…ティッシュならあるけど使う?」 「大丈夫、ハンカチあるから。」 そう言ってはみたけどハンカチでどうこうなる濡れ方ではなかった。 とりあえずハンカチを取り出して顔と髪を拭いた。 山部くんはサイドミラーを見ながらウインカーを出して車線へ戻ると車を走らせた。 「あれ?山部くん、幼稚園は?」 「それが、園で使ってる給食用のワゴンが壊れちゃってさぁ…。『ひろき先生!ワゴン壊れちゃったわ!急いで材料買ってきて直してちょうだい!』って言われて買い物してこれから園に戻るとこ。」 園長先生のモノマネを交えながら面倒くさそうに言った。指差した後部座席にはホームセンターの袋が置かれていた。 「そっか山部くんも大変だね。」 「今日はこの時間子供たちはホールで歌の練習だから外出できたってのもあるけどさ、オレピアノ弾けないし。っても、基本的に人使い荒いんだよなー!」 顔を顰めて不平を言う山部くんが可笑しくて思わず笑ってしまった。 「でも山部くんって昔からしっかりしてたし、つい頼りたくなっちゃう気持ちわかるな。」 「……。まぁ今日みたいなことがあるなら園長のムチャ振りもよかったのかもね。」 山部くんが言った。 「………。」 「………。」 無言の時間が流れて緊張してしまう。 結婚以来、ゆうちゃん以外の男の人と2人になることなんてなかったから。 「なんか昔を思い出さない?」 山部くんが言った。 そういえば… ゆうちゃんと、山部くんとよく3人でドライブへ行ったりご飯を食べに行っていた。 クラス会のときも車に乗せてもらっていたっけ。 「そうだったね!よく乗せてもらってた。」 そう言って横を見ると、山部くんの横顔が思いのほか近くて慌てて前に向き直る。 「今は保護者と幼稚園教諭だからちとまずいな。」 山部くんが言った。 「え、そうなの?…どうしよう。」 山部くんに迷惑かけたくないと思った。 するとフッと笑って山部くんが言った。 「冗談!別に悪いことしてないし。」 私はホッとした。 「ただ、なんでも面白おかしく捉えて騒ぎたがる人も居るってこと。幼稚園のママ友間なんて特にすごいでしょ?噂話とか!」 「そう言われてみれば…。」 私は知り合いが少ないからあまり実感はないけど情報の速さは目を見張るものがあるかも。 琴子さんだってひと月もしないうちに綾ちゃんのこと詳しく知ってたし。
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