眠れない夜

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ゆうちゃんから帰りが遅くなると電話があったこの日も 夕食を洸太と2人で食べて、お風呂に入って…と、 いつもと変わらないルーティンをこなして床に就く。 ただゆうちゃんがいないだけ。 でも布団に入っても寝られるわけがなかった。 洸太はしばらくおしゃべりをしてそのうち寝てしまった。 無邪気な洸太の寝顔を見ていると自然に涙がこぼれた。 私は妻という立場にありながら、自分が邪魔者のような気がしていた。 妻だけど一番じゃない。 妻だけど最愛じゃない。 何か確かなことがあった訳でもないのに お似合いだった二人を思い出すたび、ゆうちゃんの行動に違和感を覚えるたび、そう思えて1人になると涙が出る。 でも洸太の母親なんだ。 この子の母は私だけ。 泣いてる場合じゃないの。妻として自信がなくても、彼の子供を産み育てる母親としての自分を思うとなぜか強い気持ちになれた。 嫉妬や不安に押し潰されて大事な物を見失わないようにしなくちゃ…。 夜中、玄関の開く音がして、ゆうちゃんが帰ってきたとわかった。 寝室の真下がキッチンだから、かすかに音が聞こえた。 お弁当箱を洗ってくれているんだと思った。 それからキッチンを離れる音がして、 たぶんお風呂へ向かったと思う。 1時間くらいして、階段を登る足音が聞こえた。 私は背中を向けたまま寝たふりをしていた。 寝室にゆうちゃんが入ってきてもそのまま寝たふりをしていた。 今日はゆうちゃんの顔を見たくなかった。 見るのが怖かった。 普通に仕事だったと信じたいのに信じられなくて、余計なことに気づいてしまいそうで、今夜のゆうちゃんの顔は見られない。 だから背中を向けて寝たふりをした。 寝たふりをしたまま、背中ではゆうちゃんの行動を感じていた。 ゆうちゃんが布団に入り、ベッドサイドの電気を消した。それから大きくふーっと息を吐いた。 その呼吸がだんだんと寝息に変わっても、私は動かないでそのままだった。 ゆうちゃんはきっと今私に背中を向けて寝ている。 それも見たくなかったから。
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