過去の人

5/8
前へ
/153ページ
次へ
病院の中庭に来た。 車椅子を押して歩いている人や パジャマ姿でベンチにいる人。 そこにはゆっくりとした時間が流れているようだった。 私達はベンチに座った。 私はゆっくりと冷静に切り出した。 「私、あなた達が高校時代どれだけ仲が良くて惹かれ合っていたか知ってる。」 綾ちゃんは黙ってこっちを見ていた。 「私は同じ教室にいて、二人のことを見てたから。 でもあなた達は別れて、大人になった私とゆうちゃんが結婚した。だからもう…、ゆうちゃんに会わないでほしい。」 落ち着いた表情でこちらを見ている綾ちゃんは あの頃と変わらず綺麗だった。 ゆうちゃんがいつも見つめていた綾ちゃんだった。 彼女の顔を見ているうちに、私は自分の中の冷静さが失われていくのを感じた。 「あなたは過去の人だったの。ゆうちゃんにとって一番忘れ難い彼女だったとしても…それは過去だから許せたの!それなのにあなたが現れてっ…」 言葉に詰まる。泣いてしまいそう。 「あなたが現れて…、私達夫婦はめちゃくちゃなのっ…。」 涙がこぼれた。綾ちゃんは私から目を逸らした。 そして小さい声で言った。 「過去の人…。」 それから少し考えて間を置いて言った。 「それ、さっきから気になってたんだけど。」 私が持っているクリアファイルを指差した。 それはさっき産科の先生から渡されたもので出産に関する病院の案内とエコー写真が入っていた。
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

263人が本棚に入れています
本棚に追加