過去の人

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「二人目が出来たの。今日検査してわかった。」 私は言った。 「エコー写真、見せて?」 そう言われて躊躇った。それでも綾ちゃんが手を出すので仕方なくファイルから取り出して渡した。 「……まだとっても小さいけど、新しい命なんだね。」 綾ちゃんはエコー写真を眺めて微笑んだ。 私には綾ちゃんが何を言おうとしているかわからなかった。綾ちゃんは続けた。 「私と優太はもう会うことはないよ。」 私を真っ直ぐ見て言った。 「電車で時々会っていただけだし。お互いの連絡先も知らないもの。なんなら今スマホを確認してくれてもいいよ。」 もう会わないと言ったってどうやって信じればいいのと思った。 綾ちゃんは私にエコー写真を返し言った。 「私、もうすぐ死ぬの。」 綺麗な顔で微笑んだ綾ちゃん。 「今日私がここへ来たのはあなたと真逆の理由。その子が生まれる頃、私はもうこの世にいないんだから。」 動揺した私の反応などお構いなしに綾ちゃんは続けた。 「あちこち転移しちゃってて、この病院での治療は一旦おしまいってなってしまったの。だから…心配しなくても私はこの先、本当に過去の人になる。」 綾ちゃんの表情が寂しげになった。
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