過去の人

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「ゆうちゃんが一番愛する人のままなんて、綾ちゃんが羨ましい…。」 私はポツリと言っていた。 「私は自分が愛されていないと知りながらそれでもこの先…」 私がそこまで言った刹那、綾ちゃんが私の両肩を掴んでベンチの背もたれに打ち付けた。 「あなたこれ以上、何を望むの!」 綾ちゃんの顔がすごく近くて圧倒的に美しくて目を逸らせない。 「あなたは、この先その子を産んで優太と洸太くんと一緒にいられるんでしょ!私はマナを一人で産んだ!マナには絶対寂しい思いをさせなさたくないと思っていたのに、この先そばにいてやることもできない!10代の進路に悩むときも、子どもを産むときもいつも寄り添ってあげたかったのに…。」 そこまで言うと綾ちゃんの大きな目から涙が溢れた。 私は息もできなかった。 綾ちゃんは視線を逸らしゆっくりと私から手を離した。涙を拭いながら言った。 「それに優太はあなたのことちゃんと愛してるはずだよ。一番大切に想ってる。それをあなたが信じてあげないなんて、優太が可哀想…。 優太はね、必ず暖かい家に帰るの。昔も、これからも。優太はあなたのところへ帰る。」 綾ちゃんは呼吸を整えて言った。 「優太は私が病気なことも死ぬことも知らないから。だから私が勝手に消えるだけ。あなたは安心して、優太と幸せに生きていけるよ。」
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