皐月が浜

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皐月が浜

side優太 通勤の電車に乗り込むと綾が座っていた。 オレは驚いて弁当箱の入ったバッグを落とした。 その音で反射的にこっちを向いた綾は 落ちたバッグと、オレを見比べると状況を理解したようで笑った。 綾の隣の席が空いていて、座らないのは逆に不自然だと思い座った。 「おはよう。」 綾が笑いを収めて言った。 「おはよう…。」 なんでいるの?とか色々聞きたいことはあったけど、まず綾が口を開いた。 「ねえ、優太。」 「ん?」 「毎回コントみたいな驚き方をするのやめてよ。」 綾がクスクスと笑って言った。 「オレだって、荷物を落としたのは今回が初めてだったけど…。」 急に恥ずかしくなった。 でもその場に子供たちがいないこともあってフードコートの時よりも互いの意識がグッと近づいた気がした。 隣に座ると一瞬で高校時代のオレと綾。 綾が隣にいるという感覚を身体がちゃんと覚えていて「この感じだ」と再確認しているようだった。
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