皐月が浜

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電車でどこへ行くのか聞いたら綾も仕事へ行くのだという。 綾はオレの職場と同じ駅の英会話教室の講師として働き始めたと言った。 ただレッスンの予約状況や生徒によって出勤時間はまちまちだと言った。 フードコートで会った時のジーンズ姿とは違い薄いグレーの光沢のあるシャツに紺のパンツを履いていた。大人の女性ぽさが滲み出ていて15年の歳月を感じた。 綾は通勤時間帯なのに座ることができて驚いたと言っていた。 「そうか…。東京じゃこうはいかないだろうね。」 「うん。でも電車を20分待ちすることもないからね。どっちがいいのかな。」 東京ではどうしてたのか気になった。 それに、マナちゃんの父親のこと、こっちに来た理由…。 でも今聞くことじゃないよな。 「綾、英語話せるの?」 「うん、一応ね。」 「すごいなぁ。昔から英語得意だったもんな。」 おれは素直に感心していた。きっとたくさん努力したんだろうな。 「あっ」 綾がオレを見て言った。 「英語で喋ってみてって言わなかったね。」 「え?言った方がよかった?」 「言わなくていい。言われるの嫌いなの。でも英語話せるって言うと大概言われるんだ。喋ってみてって。何を喋るのよってなるんだよね。」 「嫌い」とはっきり言う綾。自分の意志がはっきりした性格は今も変わってないんだなと思った。
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