皐月が浜

3/18
前へ
/153ページ
次へ
それからも綾とは電車で会うようになった。 でも綾の勤務はやはりまちまちらしく毎日会うわけじゃなかった。 乗るのも降りるのも同じ駅だったから朝、駅に着くと綾を探した。 綾がいないとわかると残念だった。綾を見つけると嬉しかった。 「隠し事される方が嫌。」 花乃にはそう言われたはずなのに綾の事を言えなかった。やましい気持ちはないと思いながらどこか悪い事をしている自覚があった。 二人の話題はお互いの子供のことや昔のこと。 「勉強してると、いつもおばあちゃんがお菓子持ってきてくれたよね。」 綾が懐かしそうに言った。 「おばあちゃん元気?」 「うん。もう90超えて耳も遠くなったけど相変わらずだよ。」 「時々、おばあちゃんのお菓子たべたくなるんだよね。」 綾が笑った。 「いつも同じお菓子だったよなー。自分では絶対買わないようなのばっかでさ。」 オレも思い出していた。 「ポテトチップスと、味がしないビスケットと一口チョコもあったよなー。」 「あと、あれあれ…。」 綾がニヤッと笑って言った。 「「ラムネ!」」 二人で声を揃えて言った。 二人とも考えていたことが同じで笑った。 綾と二人でお菓子を食べながら勉強して、集中が途切れてくると、カラフルなラムネの包紙を投げ合ったり、チョコとポテトチップスを同時に食べてみようとか言って実験したり…。あと、キスしたり…。 昔の話になるとつい一緒にいろんなことを思い出してしまう。 綾はどうなんだろう。
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

263人が本棚に入れています
本棚に追加