皐月が浜

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数日後、昼休みに知らない番号から電話があった。 なぜか綾かもしれないと電話に出たけどそれは男の声だった。 「オマエ何やってんだよ。」 吐き捨てる様に言われた。 「…あのどちら様ですか?」 怪訝に思いながら訊くと 「山部だよ!」 キレ気味の声がした。 「大方、電話壊して連絡先全消去とかしたんだろ。」 当たっていた。番号は大学の頃から変わってなかったけど落として壊れた時に全てのデータがリセットされてしまったことがあった。その頃には山部と連絡を取らなくなっていたから気にしていなかった。 「オマエと綾のこと、噂になってるぞ。」 「え…。」 頭に浮かんだのはあの夜のことしかなかった。 「電車で会っちまうもんはしょうがねぇけど距離取るとか、気ぃ使えよ。仮にも既婚者なんだから。幼稚園のママさん連中の噂話はあっという間に広まるからな。岩瀬さんにもそのうち届いちまうぞ。」 「…ああ。」 「ちゃんとフォローしとけよ。じゃーな。」 電話は一方的に切れた。 噂になってるのはあの夜のことではない様だったけど、花乃には電車で綾に会ってしまうことすら言えなかったのにフォローのしようがない。 どんな気持ちで花乃が作ってくれた弁当を食えばいいのか…と昼飯を食べることが躊躇われた。
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