皐月が浜

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ある金曜日、 家に帰ると洸太がいなかった。 花乃の実家に預けたと言う。 花乃は料理をしていて、シンクにはギョッとするほど大量に野菜の皮や洗い物が散乱していた。 花乃はいつも片付けながら料理するから違和感があった。 「綾ちゃんと皐月が浜に行った?」 そう聞かれて思考が停止した。 「行ったの?」 花乃の視線がしっかりとオレを捕まえて嘘も言い訳も許されなかった。 「行った。」 そう答えると花乃の目が大きく開いて、侮蔑の色がはっきりと宿った。 オレは何も言えなくなった。 「何か言ってよ。私は幼稚園で他の人もいる前でそんなこと訊かれて惨めな思いをしてきたのに…ゆうちゃんは黙ったままなの?」 そう言った花乃の目から涙が流れた。 絶対に傷つけちゃいけなかったのに 大切な花乃だけは、絶対に守らなきゃいけなかったのに オレは自分がした事がいかに理不尽で身勝手か、ようやく理解した。 でもそれは遅過ぎた。 「ゆうちゃん、もう私のこと好きじゃないでしょ。」 そう言われて、何を、何から、どう伝えればいいのかわからなくなった。 花乃を傷つけておきながら、オレの気持ちをわかってほしいと思った。 どれだけ好きか、どれだけ大切か。 「好きだよ…花乃のこと。ずっと、今だって…。」 今まで片時も手放さなかった想いでも、こんな状況じゃ伝わるはずもなかった。 花乃を失ってしまう。
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