瞬きの時間

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その日、綾は久しぶりに体調が良くてベッドで身体を起こしていた。 「花を買ってきたよ。」 そう言って渡すと嬉しそうに受け取ってくれた。 「ママに後で生けてもらおう。」と言って花の香りを楽しんでいた。 綾がおもむろに向き直り言った。 「優太、ありがとう。」 「うん、また買ってくるよ。」 そう言うと綾は微笑んだ。 「お花だけじゃないよ。こうして私に会いにきてくれたことも。」 「うん。」 「優太と過ごせて幸せだった…。」 綾の目が潤んだ。 「最後に…。」 そう言うと綾の涙がこぼれた。 「もう一度だけ…。」 泣き顔で両手を伸ばした綾をすぐに抱きしめた。 感情が一気に昂ぶって涙が溢れて止まらない。 「ずっと優太のことが好きだった。 ずっと優太に会いたかった。 あの頃と変わらず優太が好きで 他の人と付き合っても いつも優太のこと思い出してた…。」 綾の想いを聞いて綾を抱きしめる手に力が入った。 オレも同じだった。 どうしても綾への想いを手放せなくて綾の面影を探していた。結ばれることはないとわかっていたのに。 身体を離すと綾が言った。 「私、優太が好き。昔からずっと。」 そう言われて、綾への想いがあふれた。 「オレも…、オレも綾が…」 言いかけたオレの言葉を遮って綾が言った。 「優太は花乃子さんと暖かい家庭を築いて。幸せになって。絶対に…。」 涙を流しながら笑った綾に、オレは言葉を飲み込んだ。
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