瞬きの時間

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公園は何も変わらず、空も、街ゆく人も、全て変わらないのに 綾だけがいなくなってしまったことが信じられなかった。 綾、もういないんだな。 この街にとかじゃなくて、この世界のどこにも、綾はいなくなってしまったんだ。 無意識に空を見上げていた。 しばらくして視線を感じた。少し離れたところから高齢の女性がこちらを見ていた。 泣いていることがバレたのかも知れない。 慌てて鼻をすすって誤魔化していると、その女性はニコニコしながら近づいてきた。 「あなた、昔ここでよく女の子を見送ってなかった?」 急なことを訊かれて驚いた。はぁ…。と中途半端な返事になってしまった。 「私はそこの駅をもう20年毎日使っていてね、かわいいお嬢さんとハンサムなあなたをよく見かけていたの。」 オレ達を見ていた人がいたんだ。 あの頃は周りなんて気にしてなかったしまったく気づかなかった。 綾にこの人のこと聞かせてやりたいな…。 「あの女の子、あなたの姿を見送っていたの知ってる?」 そう聞かれて戸惑った。この女性の思い違いだと思った。オレがいつも綾を見えなくなるまで見送っていたから。 「彼女ね、一度あなたから見えなくなるところまで歩いてから、戻るの。そうしてこっそりあなたのことを見送っていたのよ。寂しかったんでしょうね。健気で微笑ましかったわ。」 駅へ向かう制服姿の綾が思い出された。 「…知りませんでした。」 そう言うのがやっとだった。 「それにしてもあなた相変わらずハンサムねぇ。彼女は元気?」 止め処なくあふれる涙はどうすることもできなかった。 悲しくて寂しくて呼吸もままならないほど泣いていた。
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