プロローグ

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「花乃、かーの?聞いてた?」 夫のゆうちゃんの声に我に返る。 「ごめん、何の話だっけ?」 私の間抜けな返事に、ゆうちゃんが呆れたように笑った。でもその表情は優しい。 今日も朝からあなたに見惚れていたのなんて言ったらますます呆れられちゃうかな。 「花乃はいつもしっかり者なのに、時々、ぼんやりしてるよね。」 笑っていうゆうちゃんは私が作った朝食のフレンチトーストを頬張りながらもう一度話して説明してくれた。 「だから、洸太(こうた)の夕涼会!幼稚園の役員だから、出なきゃなんだろ?」 そう言われて私も思い出した。 「そうなの!役員は夜店の店番をしなくちゃならなくて…。」 くじ運の悪い私が役員を引いてしまったばかりに、幼稚園の夕涼み会で店番をしなくてはならないこと。先週にはゆうちゃんに伝えていた。 「オレ、仕事休み取れたよ。」 「ほんと!?」 夕涼み会の店番は時間で交代制とはいえ、自分の子供と過ごす時間が少なくなる。「出来れば夫婦で来た方がいいよ」と先輩ママに言われていた。 土曜日も出勤が多いゆうちゃんが休みをとることは厳しいと思っていたのに。 「そう!だから、花乃が店番している時はオレが洸太と一緒にいられるから。」 「ありがとうゆうちゃん!これで洸太が寂しい思いをしなくてすむよ!」 もし、ゆうちゃんが休めなければ私が店番の間はママ友に洸太のことを頼むつもりでいたけど、洸太の気持ちを考えるとパパと一緒がいいだろうなと思っていた。 ゆうちゃんはフレンチトーストの最後の一口を頬張ると 「オレも洸太に、寂しい思いさせたくないし、花乃の事も助けたいから。」 そう言って慌ただしくスーツのジャケットに袖を通して、まだ寝ぼけた表情の洸太の頭にぽんと触れて玄関へと向かった。 私も後を追う。 去年建てたばかりの念願のマイホームの玄関で ゆうちゃんの出勤前、ほんのひと時夫婦二人だけの時間。 「いってらっしゃい。」 私が言うとゆうちゃんの大きな手が私の頬を包んで優しくキスしてくれる。 「いってきます。」 そう言って微笑むと颯爽と玄関を出ていくゆうちゃん。 私の自慢の旦那さま。 学生時代から今もずっと一番大好きな人。
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