前田優太

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山部たちにはもうバレていたけど一応報告した。 「綾と付き合うことになったわ」 「え、自慢?」 僻み丸出しに言ってきたのはタケだった。 そういえばタケは秋川沙耶という女子に振られたばかりだった。 「なんかゴメン。」 「くそーー!謝ってんじゃねーよ!」 喚きながら荒れるタケを抑え込んで山部が言った。 「オマエは残念イケメンだからなー。長く続くように頑張れよ!」 山部いいやつだ。 そんな山部も片思いをすることになる。 それは2.3年と同じクラスになる岩瀬さん…。花乃だった。 いつも「かわいい」とか、「優しい」とか山部が言っているのは知ってた。 でも当時のオレにとっては、花乃はクラスメイトで山部の片思いの相手。正直あまり覚えていない。 けど2年のときの文化祭の準備。 あの時のことは覚えてる。 確かクラスでの準備が大詰めに入っていた。 ひと段落してみんな帰り始めていたのに、1人忙しそうにしている子がいて気になった。 声をかけるとかなり慌てていてかわいそうになった。 予定もなかったから手伝うことにした。 それなら…。と残っていた山部に声をかけた。 普段通りにしてるけど、あいつ絶対喜んでるよな。 山部はいいヤツだからオレも嬉しくなった。 足りない材料を買いに出て戻ると2人、いい感じで作業していた。このままくっつけばいいのになんて呑気に考えていた。 岩瀬さんは真面目でとにかく一生懸命な感じ。 絵が下手なオレや、ふざけた絵の綾と違って信じられないほどスラスラと上手く絵を描いていた。 周りにもたくさん気を遣っているのがわかった。 山部が好きになるのもわかるなと思った。 準備に目処が立ちそろそろ帰ろうということになった。 すると岩瀬さんに呼び止められた。 オレがペンケースを忘れていると言った。 でもオレはいつもペンケースを学校に置いたままにしてたから別に持ち帰らなくてもよかったんだけどせっかく言ってくれたので受け取った。 「今日は助けてくれてありがとう」 山部には感謝されて当然と思っていたけど、クラスのことなんだし岩瀬さんがそんなこと言う必要ないのに。 けど、お礼を言われて悪い気などするはずがない。 「文化祭、成功するといいね」 そう返事をしたら、岩瀬さんは顔を赤くして大きくうなづいた。 あれ、なんか…。もしかして。 そういう女の子の表情。何度か見たことがあった。 気づかなかったことにしよう。 そもそも顔が赤くなりやすいのかもしれないし。 そんなこと考えてたら山部の顔が見れなかった。 岩瀬さんのことはそれ以降あまり考えないようにした。あのときのあの表情は気のせい。そう思う事にしていた。 「ゆうちゃんのこと、ずっと好きだったから…。」 結婚後、花乃にそう言われた時にこの日のことを思い出した。 でも実はその気持ちに気づいていたなんて、花乃には言わなかった。 それを言えば、その頃は綾と付き合っていたからと言わなければならないから。 花乃と綾のことを話したことはない。 付き合っていたことは知っていると思うけど、元カノの話なんて聞きたくないだろうから。
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