前田優太

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綾はいつも前を見ていた。 将来は通訳になりたいとキラキラした目で言っていた。 陸上に一生懸命で、記録が伸びなくて悩んでいることもあったけど愚痴や泣き言は言わなかった。 今のこと、将来のことをしっかり考えていて、ただ漠然と進学しようと考えていたオレとは違った。 そういうところにどうしようもなく惹かれた。 そうかと思えば、新しいもの好きで新発売のお菓子を食べたとか、変な飾りのヘアピンをつけてかわいいでしょとか、子供っぽいことを言ってくる。 表情がコロコロ変わる綾。 午前中に楽しそうに喋っていたかと思えば、午後には不機嫌だったり、笑っていたのに急に怒ったり、 付き合い始めても綾の気持ちが分からないことがよくあった。 それはオレが至らないせいなのか、マイペースな綾の性格なのかわからなかったけど 綾は結局はいつもオレの横にいた。 いつもオレのとこにきて喋っていた。 嬉しかったこと、ムカついたこと、驚いたこと、表情豊かに喋る綾。 それを聞いているのが好きだった。 一生懸命に喋る綾は可愛かった。 オレの友達ともすぐに仲良くなってオレたちと一緒に過ごすことも日常だった。 女の子なのにゲームもうまいし、くだらないノリにも合わせられて、逆にこっちを笑わせてきた。 2人でいるときはくっついて甘えてきた。 「ぎゅってしてよ。」 抱きしめると、男とは全然違う、華奢な体。 壊しそうで、大事にしたいのに甘い匂いに煽られて思わず力が入りそうになる。 「お返しー!」 そう言って抱きしめ返されると背中にまわった腕が細いのがわかって女の子だと意識した。 柔らかな感触に頭が沸騰しそうだった。 抱き合って、キスもした。 でもその先には進めなかった。 綾とするのを何度想像したし したい気持ちはもちろんあった。そういう行為自体にも興味はあった。 けど綾を汚したくないという矛盾した思いがあった。 うまくできなくてがっかりさせたらと不安もあった。 綾が先に進みたがっていることに気づいていたのに、このままでいいと甘えていた。 綾との心地よい関係が変わってしまいそうで怖かった。 安定していたいオレと変化が好きな綾は真逆の性格だった。
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