前田優太

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3年になり、部活を引退すると綾はバイトを始めると言い出した。 受験の真っ只中でバイトを始めるのは違和感があったけど綾はオレより頭がよかったし、余裕があるんだと思った。綾は常にオレが思いつかないようなことをしたからそういうことの一つだと思った。 この頃になると、田舎はつまらないから出たいとよく言っていた。 オレは地元の大学に進学するつもりだったから綾が地元を出たらオレたちは離れなければならない。 でも行くなとは言えなかった。 そんな小さい男だと思われたくなかったし、オレたちなら離れても大丈夫なんじゃないかと思っていた。 綾がバイトを始めるとバイト先のコンビニへ山部たちとふざけて行ったことがあった。 その店で一番安い駄菓子を30個買って困らせた。 その時に若い男の店員がいたのに気がついた。 そいつはチラチラとこっちを見ていて騒ぎすぎたかなと思った。 そいつのことはその日以降すっかり忘れていた。 12月に入った頃から、綾はあまり喋らなくなった。 ぼんやり何か考えていて元気がなかった。 月曜と木曜は綾のバイトが必ず休みだったから自然に一緒に帰る日になっていたのに女友達と先に帰ってたり用事ができたと言ったりで一緒に過ごせなくなっていた。 でも綾の気まぐれは驚くことじゃないと思ったし、あまり気にしないようにしていた。 クリスマスが迫っていた頃で、前の年は山部たちも一緒にゲーム大会をして終わってしまったから、今年は2人で出かけたいと言うだろうななんて考えてた。 久しぶりに一緒に帰ったときだった。 「クリスマスどうしようか?」 と綾に訊いた。 クリスマスと聞いてはしゃぐ綾の返事を待っていた。 でも綾は立ち止まりじっとオレを見て言った。 「クリスマスは一緒に過ごせない。」 予想外だったけど、家族と用があるとか、バイトが入ったとかかなと思った。 「そっか、なんか用事あるの?」 残念な気持ちを隠して聞いた。 「他に好きな人ができた」 好きと言われたのも急だったけど別れを告げられるのも急だった。
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