前田花乃子

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前田花乃子

ゆうちゃんは高校の時のクラスメイトだ。 当時から当たり前のようにモテていた。 背が高くて、顔が小さくて、いつも髪がサラサラしていて、人目を引くはっきりとした顔立ちで、挙げていたらきりがない。 力強い大きな目をしているのに笑うとその目が細くなって一気に優しい印象になる。 夏は程よく日に焼けていたけど夏が終わると色白になって肌もすごく綺麗だから清潔感が増して少女漫画の王子様みたい。 月並みな言い方だけどめちゃくちゃかっこよかった。 高校受験の当日に初めて見かけて目を奪われた。 生まれて初めての感覚を今も覚えている。 一年の頃は同じクラスではなかったけど 高校のミスターコンにも一年から三年連続で選ばれて目立っていたから名前も「前田優太」だと知っていた。特定の部活には入っていなかったけど、体育祭で活躍していたし、文化祭でダンスを踊っていたこともあった。 何をしてもかっこよくて、見ているだけでワクワクした。 一方私は地味で、顔も体型も平均的。 とても近づけるような存在ではなかった。 何よりゆうちゃんの隣にはミスコンでグランプリになった綾ちゃんという美人な彼女がいた。 私とは別世界の人。“綾ちゃん”なんて言ってるけど一度も話した事はなかったし、同じクラスにもならなかった。 綾ちゃん、佐伯綾ちゃんは生徒会活動をしていたり、陸上部の部長だったり、彼女も目立つ女子だった。 二人がつきあうキッカケは彼女が当時のゆうちゃんに告白したからだと誰かが話しているのをきいた。 あんなにかっこいい人に告白できるってすごい。でも彼女になら出来るだろうなと思った。 彼の隣に立つにふさわしい女の子だと思えた。 美男美女ってこんな人たちをいうんだ。 同い年のはずなのに大人っぽくて毎日何を考えて過ごしているんだろうと思ったくらい、私とはかけ離れていた。 キラキラしていてみんなから好かれていて、田舎の高校だったから2人が並んでいると、芸能人みたいに騒がれていた。 当時の私はもちろん「ゆうちゃん」なんて呼べなくて「前田くん」というのが精一杯。 それも高校生活では一度だけだった。 そう、一度だけ、「前田くん」と呼んだから覚えてる。 当時の気持ちは好きとは、違う。彼女になりたいなんてもってのほか。そう思っていた。 ただ、見ているだけでいい。 ーーー今日も綾ちゃんといるな。 ーーーあ、髪を切ったんだ。 ーーー体育暑そうだなー。日に焼けて肌が赤くなってる。 前田くんのことなら小さな変化も気づけるし、前田くんのことはなんでも知りたかった。 それはアイドルを応援するみたいな、一方的な気持ちだったけど、私の高校生活の大きなウエイトを占めていた。前田くんを見ていることは生活の一部みたいになっていた。 高校時代でのゆうちゃんー前田くんと関わった思い出はたった一つ。 一つだけ…。
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