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2人で遊ぶ時はいつも山部の運転で出かけることが多かった。寒かったので夕飯にラーメンを食った時だった。
「は!?ふざけんなよ!!」
狭いラーメン屋の店内に山部の声が響いた。カウンターの客が振り返ってこっちを見た。
やっぱり、山部はブチギレたな。
ただオレの予想とは違うことにキレていた。
「オマエいい加減にしろよ!それを俺に言ってどうしろって言うんだよ!」
コイツ、オレにキレてる?
山部は続けた。
「岩瀬さんが誰を好きか、気づいてるだろ?」
睨むようにオレを見て言った。
「岩瀬さんはずっと…。高校の頃から、ずっと…オマエを見てる。あの日、文化祭の準備の後、オマエにペンケース渡した時の岩瀬さんの顔。俺だって見てるんだよ。岩瀬さんがオマエを好きなこと気づいたはずだ。」
全てを見透かされた気がして、何も答えられなかった。恥ずかしかった。
「オマエを見る時の嬉しそうな表情とか、オマエが女の話してる時の悲しそうな顔とか、見るたびに…俺は岩瀬さんに会うたびに振られてるんだよ!俺が岩瀬さんに告らなくても結果はわかってるだろ!下手すりゃ困らせちまう。」
それが、山部が告白しない理由?
「俺は岩瀬さんに会うたびに確認してるんだ。
岩瀬さんがまだオマエを好きかどうか。惨めでしょうがないよ…。
けどさ、俺が好きになったのは、オマエに恋してる岩瀬さんなんだよ。
オマエを一途に見つめてる岩瀬さんを好きって思っちゃったんだよ…。」
そう言って持っていた割り箸を空のどんぶりに投げた。一本が入って一本はテーブルに転がった。
何も言えない。
オレが一人で二人を傷つけてたんだ。
岩瀬さんの気持ちに気づかないフリして、岩瀬さんに対してはっきりした意志を示さずにいたから…。岩瀬さんも山部も前に進めなかった?
「好きだって言いたいよ。でもさ…。それを聞いた岩瀬さんの顔はどんなだろうって考えるんだ。きっと困惑して戸惑ってさ。優太と俺と岩瀬さんと一緒に過ごした今までの時間なんだったんだって思わせちゃうだろ。」
頭をぐしゃぐしゃと掻きながら山部は言った。
確かにオレも悪かったかもしれない。
でもだからって、諦めるのかよ。待ち続けるのかよ。
したらオマエの気持ちはどうなるの?
山部に言おうとしてやめた。
綾と別れた時、離れたくないと思いながら手放した。
困らせたくない。
彼女に悲しい顔させる原因になりたくない。
いい奴でいたい。
そんな気持ちオレも知ってたから。
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