前田優太

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恒例になっていた年末の高校のクラス会。 どこに内定貰ったとか、就職浪人しそうとか、気楽な学生時代が終わってしまう寂しさからかみんなテンションが高くて無駄に盛り上がっていた。 オレは誘われるまま、席をあちこち移動して飲んでいた。 それでも常に岩瀬さんのことは気にしていた。 岩瀬さんは自慢話ばっかりで誰にも相手にされないヤツの話を聞かされたり、誰かがこぼした酒をおしぼりで拭いていたり、相変わらずつまらない役を引き受けていた。 キョロキョロしてるのは、たぶんオレを探してる。 で、オレを見つけて…でもオレと目が合いそうになると慌てて酒を飲んで誤魔化したり、座り直したりしながら視線を逸らす。 健気な様子が堪らない。 素直にオレも好きなんだと自覚してしまえばこんなに嬉しいものなんだ。 だけど好きという気持ちは同時に不安やら独占欲やらネガティブなものを連れてくる。 オレが団体で騒がしい女子達に捕まって飲んでたら、いつのまにか岩瀬さんのとこに山部がいた。 心がざわつく。席を立って今すぐ2人のとこへ行きたいと思った。 何を話してるんだ。やたら楽しそうに見えた。 「ちょーっとゆーたぁ!全然のんでなくなーい?のんでよーーー!」 酔ってオレの腕を掴んでなんの酒かわからんグラスを押しつけてきた女は、化粧が濃くて高校時代の誰なのか思い出せなかった。 岩瀬さんと山部が気になるのにその場を動けない苛立ちから、押し付けられたグラスを引っ掴んで一気に飲み干した。 「やーーん!男らしーいっ!」 騒がしい声はオレの耳にはまったく届かずミュートのテレビみたいに無音の世界で遠い席の2人だけが見えていた。 突然どっと笑いが起こってもオレは2人から目が離せなかった。山部が席を立ちタケを介抱し始めた。 2人が離れてホッとした。 けど焦燥感が拭えなかった。 荒れた気持ちで勧められるまま酒を飲んで、あっという間に酔ってしまった。
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