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2人の夜
ゆうちゃんとの初めての夜のこと。
今でも夫婦で話すことがある。
最近は洸太が1人で寝られるようになって、夜に2人の時間が増えた。
リビングで2人、お酒を飲んでいると、どちらからともなく昔の話になる。
「オレは我慢しようと思ってたのに、花乃から誘ってきたんだよ。」
そう意地の悪い笑顔で言われると未だに赤面してしまう。
本当にあの時の私はなんでそんな大胆なことが言えたんだろう。
あの夜……。
夢を見てるみたいで、ずっとこの夢が終わって欲しくないと思った。
繋いだ手よりもっとちゃんとした証が欲しくなったんだ。
ゆうちゃんと過去の彼女達がキスをしたり、そういうことをしてる場面、嫌なのに考えてしまっていつも苦しかったから…。
その日の夜に誘う女の子なんて、ゆうちゃんは引かなかったのかな…。
後になってとても後悔したけど、ゆうちゃんは言う。
「花乃からそう言ってくれて嬉しかったに決まってるじゃん。あの夜の花乃、本当に可愛かったから…。」
男の人としたこともなくて、そういう場所自体初めての私は、ホテルに入った後のことは緊張や恥かしさ、あとお酒が入っていたこともあってあまり覚えていない。
ただ、ゆうちゃんの視線が熱くて、色っぽかったのを覚えてる。
ゆうちゃん…前田くんも、こんな顔するんだって、
どんな表情も見逃さずにいたつもりだったけどこの表情だけは知らないって思った。
前田くんが私を求めてくれてる。そのことが嬉しかった。
「…あの夜みたいにさ、花乃からオレの手を引っ張って誘って欲しいな。」
ゆうちゃんは私の手を握るとそのままその手に口づけして、上目遣いに私を見た。
その目…。
その目に見られただけで私はもう、どうしようも無く疼いてしまう。
ゆうちゃんはそれをわかっているの?
わかっていて私を煽っているの?
それとも、無意識でそんな艶っぽい目をしてるの?
私とゆうちゃんには経験値に大きな差があって私はゆうちゃんしか知らない。
自分から誘うなんてどうしたらいいかわからないし、ゆうちゃんの言動に恥ずかしさから固まってしまう。
そんな私を見て満足したように笑ったゆうちゃん。
「嘘だよ。花乃、可愛い。」
掴まれた手を引っ張られてそのままキスされた。
ゆうちゃんの大きな手が私の顔に触れる。暖かくて心地よくてそれだけで自然に目を閉じてしまう。
その指がそのまま耳へと滑ると、声が漏れそうになる。
耳への刺激の反動で開いた唇を深いキスで塞がれそのままソファーへ押し倒された。
寝室では洸太が一緒に寝てるから、こうしてリビングですることが多い。
洸太が2歳を過ぎて、私が育児に慣れて余裕が持てるようになった頃、2人目を考えるようになった。
洸太には歳の近い兄弟を作ってあげたいと思っていたのになかなか出来なくて気づけば洸太は5歳になっていた。
結婚してすぐに洸太を授かったから2人目もすぐに授かれると思っていた。
私達夫婦の仲はいい方だと思う。回数だって…。
“子供が産まれてからレス”なんて話もよく聞くけど、うちはそんなことない。
けど妊娠には至らないままだった。
ゆうちゃんは以前と変わらず私を求めてくれる。
私達は妊娠を望んでいるから、もう当たり前のように避妊しないでするようになっていた。
耳にかかる吐息と同時にゆっくりと腰を沈めたゆうちゃん。
「……あっ。」
産後身体が変化したのか中が感じやすくて、簡単に声が漏れる。
口元に手をやって必死で声を殺していると
「声、聞かせてよ。」
獰猛な目でこちらを見下ろしながら私の手を掴むとそのまま腕で押さえつけた。
いつも優しすぎるくらいのゆうちゃんが、こういう時だけ覗かせる荒々しい感じがさらに私を昂揚させる。
…でも洸太が起きちゃうかもと頭によぎる。
そんな内心を見透かされたのか動きは激しくなって、腰が動いてしまうほど弱いところを執拗に責められた。
「…んっ、あ…あっーー。」
こうなると抑えられなくて自分で聞いても恥ずかしくなるような、やらしい声が出てしまう。
私の躰は、ゆうちゃんの意のまま。
初めての夜から今までたくさん愛されて、いろんな感覚を教えられた躰。
彼に触れられるとあっという間にほどけて、はしたなく乱れてしまう。
身体の相性って言葉を聞くけど、ゆうちゃんしか知らない私には『相性』なんてわからない。
けど、これ以上の感覚なんてあり得ない。
そう思っている。
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