予感

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ギクシャクした一日だった。 夫婦になって6年。 付き合い始めたのは10年前だ。 でも私はもっと前からゆうちゃんを見ているの。 少しの変化も気づいてしまう。 わかってしまう。 寝室で親子3人、床に就く。 私にしがみついたまま、眠っている洸太。 5歳になっても、寝る時は私の肌を触りたがる。 洸太の寝顔を見ながらゆうちゃんが言った。 「寝顔は赤ん坊のときのままなのに、洸太、成長してるんだな。」 「うん。毎日成長してるなって思うよ。」 「今日もブランコ上手に漕げるようになってたり、花乃が好きなアイスをちゃんと覚えていたり…。」 「そのうち身長だって、ゆうちゃんより大きくなるかもよ?」 「身長かぁ…。んー!抜いて欲しいような欲しくないような。」 かなり複雑な表情のゆうちゃんを見て笑ってしまった。 やっといつもの私達らしさを取り戻せた瞬間だった。 「花乃…。」 ゆうちゃんがおもむろに身体を起こし、布団の上で正座した。 私も釣られて身体を起こす。 「花乃…佐伯綾って覚えてる?」 ゆうちゃんの口から一番聞きたくない名前だった。 「同じ高校で陸上部だった、生徒会とかもやってたかな、花乃は接点なかったと思うけど…。」 「ゆうちゃんと付き合ってた子だよね?」 ゆうちゃんは私の返事に少し戸惑ってから 「…そう。」 と答えた。 知らないわけないのに。 私達の学年でゆうちゃんと綾ちゃんのカップルを知らない人なんていないよ。 「今日…さ、店で会ったんだ。」 ーーー私、今とても冷静だ。わかっていたもの。 ゆうちゃん今日不自然だったし、すぐわかった。 ゆうちゃんは私の様子を窺いながら話す。 「アイスを食べたフードコートで席がそこしか空いてなくて隣で…。洸太も綾の子供のこと知ってたみたいで。」 「…うん。」 「ほんと、5分くらいだったし、洸太がずっとペラペラ喋ってただけなんだけど。」 なんかわかるかも。最近の洸太、本当におしゃべりだから…。 「別に隠すことではないと思ったけど、花乃に嫌な思いさせたくなくて…。」 「隠し事されるほうが嫌かな?」 「…そうだよな。ごめん。」 目に見えてシュンとしてしまったゆうちゃん。 「ーー私は大丈夫だよ。話してくれてありがとう。」 本当は嫉妬でどうかなりそうだけど、そう言った。 ゆうちゃんの口から彼女の名前は絶対に聞きたくなかったし、洸太だって会わせてほしくなかった。 でもこんな時、女ってすごく上手に嘘がつける。 私はゆうちゃんに微笑んだ。 「…ほんと悪かった!でも付き合ってたって言っても昔のことだし、お互い子供いて、全然そんな感じじゃなかったから。」 私の反応に安堵したゆうちゃんは一気に口数が増えた。 「じゃあ、電気消すね!おやすみ」 スッキリした顔をして、長い腕を伸ばしてベッドサイドの電気を消して布団に潜った。 男の人って単純にできてるのね。 昔のことって言ったけど 私だって他の元カノだったらこんなに嫉妬しない。 彼女達がたいして愛されてなかったこと知ってるもの。 綾ちゃんだけはダメなの。 ゆうちゃん、綾ちゃんのこと本当に昔のことって割り切れるの? 未だに、心のどこかに綾ちゃんへの想いがあるんじゃないの?
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