佐伯綾

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佐伯綾

side綾 パパがいて、ママがいて、お姉ちゃんがいて。 ごく平均的な家庭で育ったつもりだったけど、中学の頃に パパがほとんど家に帰らなくなった。 ママは目に見えてやつれて、夜中一人で泣いていることもあった。 私が小さい頃は明るくてよく笑う人だったのに。 お姉ちゃんからパパが浮気していると教えられた。 私達がいるのに浮気するパパも許せなかったけど、家で泣いてるだけのママも許せなかった。 あんな惨めな生き方はしたくないと思った。 私が陸上の大会で優勝しても、テストで一位を取ってもママはいつもイライラして怒っていた。 お姉ちゃんだけは褒めてくれたけど、大学進学で家を出てしまってからはまったく家に帰らなかった。 私は不幸の塊みたいな家に取り残された。 いつも暗くてつまらない家。 お姉ちゃんみたいに私も家を出たかった。 中学の卒業式に3人に告白された。 家に帰ったらさらに2人からメールで告られた。 なんか急にモテ期。 そのうちの1人と付き合い始めた。 すごくカッコ良かったけど、つまらなかった。 イライラしてわがままを言いまくっていたら春休みのうちに振られていた。 高校に入学すると、通学で使うバスでチラチラこっちを見てくる男子生徒がいた。他校の制服を着てもちろん面識はなかった。 ある朝、隣に座られて一方的に話しかけられた。 適当に相槌打って誤魔化してたら、その翌朝も、翌朝も…。 面倒だけど時間をずらしてバスに乗ることにした。 何日か経った朝、怖い顔をした女子がバス停に立っていた。 私と同じ制服でリボンの色から同級生とわかった。 一応進学校なのにスカートが短くて髪色も明るかった。 このバス停私以外に使う子なんていなかったのに。 彼女は私を睨みつけていた。 バス停には私達以外誰もいない。 「佐伯綾ってあんた?」 「…そうだけど。」 それを聞いて彼女の表情が一変した。 「てめぇー!ウチの男に手出してんじゃねぇよ!」 いきなり殴りかかってきた。 とりあえず持っていた鞄で応戦した。 …でも、なんか。 この子、弱いかも。 思いっきり蹴ったらあっけなく吹っ飛んで尻餅をついた。 すると地面にしゃがんだまま泣き出した。 「ふえーーん!」 え?うそ?うそでしょ? 殴ってきたのそっちじゃん。 それが10年以上の付き合いになる真依子(マイコ)との出会いだった。
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