前田花乃子

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そんなある日、女子トイレの個室にいたら綾ちゃんとその友達が話しているのが聞こえて、私の想像に新たなパターンが加わった。 実際の恋愛ごとに疎い私には想像も出来なかったけどそれがほぼ真実なんじゃないかと思う。 それは、私がトイレの個室に入ったすぐ後、人が入ってきた気配があった。鏡の前でポーチか何かを出しているみたいだった。リップクリームの蓋をパキッと外す音がした。 「で、どーなの?バイトの大学生は?昨日もシフト一緒だったんでしょ?」 これは綾ちゃんといつも一緒にいるマイコという子の声だった。 「あー相良さん?なんか遊ばれてるのかも。」 教室に来ていたときとは違って、少しテンションの低い綾ちゃんの声が聞こえた。 「でもこの間一緒に映画行ったんでしょ?」 「あーあれね。しかもあの後ホテル行ったんだよね。じつは。」 「はーー!?聞いてないんだけど!!」 「言ってないしw」 ギャアギャアと大騒ぎのマイコちゃんと、詳細を勿体ぶる綾ちゃんは、そのままトイレから出たようで、後は声がどんどん遠くなってその先は聞けなかった。 私はトイレの個室に篭ったまま下着を上げるのも忘れて脱力していた。 綾ちゃんに他に好きな人ができるパターンを想像していなかった。 前田くんという彼氏がいるのに他の人を好きになるなんて私には考えられなかった。 それにホテルって。 綾ちゃん、つまり、そういうことだよね。 それって。 それって。 前田くんともあったことなのかな? 二人が抱き合ったりキスしたりするところ、想像したこともあった。 けど実際は何もないと思っていた。 前に教室でタケくんが前田くんに 「ねーお前と綾って実際どこまでやってるのー?」と、詰め寄ったことがあった。 そこに山部くんとか他のメンバーも加わって羽交締めにされた前田くんは顔を真っ赤にしながら 「ホントに何もないって!マジでまだしてない!」 「まだって何だよ!コイツヤル気じゃん!綾ちゃーん!逃げてーw」 そのまま男子達と前田くんはもみくちゃになってふざけながら教室を出て行った。 その時の真っ赤な前田くんのイメージがあって、彼が実際そんなことできるはずないと思ったのだ。 トイレでの話を聞いてから、前田くんと綾ちゃんのそういうシーンを考えてしまっていた。 綾ちゃんは私より背が高くて手足が長いから、とてもスタイルがよく見えた。細い身体でも陸上部らしく筋肉が程よくあって、胸もお尻もちゃんと出ていて女の私からみても綺麗な体をしていた。 前田くんは、夏の暑い日にはいつもシャツの袖を肩まで捲り上げていて、その時に見える腕は驚くほど筋肉質だった。 肩幅があるのに、ウエストはすごく細い。体育祭でTシャツの裾をパタパタとさせている時に見えたお腹はうっすらと割れていた。 本人達には申し訳ないけど前田くんも綾ちゃんも裸になってもきっと絵になると勝手に想像していた。 ろくに話したことがないからこそ、そんな下世話なことまでイメージできたんだと思う。 ほんと、人としては最低だなって思うけど、二人のことを考えることをやめられなかった。
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