佐伯綾

15/28
前へ
/153ページ
次へ
相良さんは何を考えているのかよくわからない人だった。 大学生だときいたけど、どこの大学なのか知らなかった。いつも外でタバコを吸ってくるからタバコくさかった。 背は優太ほど高くないけど、髪が長めで、声が低くてゆっくり喋る。 私の周りにはいないタイプ。少なくとも高校生とは違った。 バイト中ものんびりしてる感じなのにいつの間にかやることを終わらせてて、タバコ休憩の時間をしっかり確保していた。 いつか、優太と山部たちが私のバイト中に遊びにきたことがあった。 バイト中の姿を優太に見られるのは少しだけ恥ずかしかった。 奴らはわざと面倒な小さい駄菓子をたくさん買って行った。その後雑誌コーナーで立ち読みして大騒ぎして帰っていった。 帰り際、優太が申し訳なさそうにごめんのポーズをしていた。 優太たちが帰ったあと、相良さんが言った。 「若いねー!高校生って感じー。」 「すみません。」 なんで私が謝ってるんだと思ったけど、優太たちが来てくれてけっこう嬉しかった。にやけそうなのをバレたくなくて口をぎゅっと結んだ。 「あのイケメン?それとも短髪の日に焼けたやつ?」 「え?」 何を聞かれてるかわからなかった。 「綾ちゃんの彼氏。」 日に焼けてるのは山部だと思った。 「イケメン、なのかな…?」 自分の彼氏を他人にイケメンって言うのどうなんだろう。でもそれが優太を表す1番の形容詞なのは知ってた。 「ふふっ、あっちかー。優しいけど鈍感って感じだね。彼。」 相良さんが笑って言った。 当たってると思って驚いたのと、でも他人には優太を悪く言われたくないと思って腹が立った。私は返事をしなかった。 「綾ちゃんはなんでバイトしてるの?彼氏にクリスマスプレゼントでも買うの?」 相良さんに訊かれた。 相良さんには隠してもどうせバレるような気がした。それに何を言っても驚きもされなければ同情もされないだろうと。 「家にお金がないんです。」 「へー。そうなんだー。」 ……ほら、やっぱり。 「だから大学へも行けそうにありません。」 「そっかぁ。」 「パパが不倫して帰ってこなくて…。」 「うん。」 「ママがメンタルおかしくなって買い物しまくっちゃってて…。」 「うん。」 「早く家を、出たくて…。」 ヤバい、泣きそう。 タイミングよくお客さんが来て、相良さんがレジ対応に入った。 なんとか涙を堪えた。 お客さんが帰っていき、また店の中は相良さんと私の2人になった。 「綾ちゃん。」 「…はい。」 何を言われるんだろう。泣きかけたことバレたかな。 「大学は行かなくていいよ。」 「へ?」 「だって行ってもつまんないよー。それより早く家、出ちゃいなよ。そんなママといたら綾ちゃんの方が壊れちゃうよ。」
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

263人が本棚に入れています
本棚に追加