佐伯綾

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そのまま帰りたくなかった。 暗い家に不機嫌なママがいる。お酒を飲んで、突然泣かれたり、怒鳴られたり。 その日は優太に拒否されて、その上ママにまで耐えられそうになかった。 勤務日でもないのにバイト先のコンビニへ行った。 相良さんが外でタバコを吸っていて すぐに私に気づいてくれた。 「あれぇ?綾ちゃんどうしたの?」 タバコを消しながら訊かれてもなんで来たのか自分でもわからなかった。 「泣いてるの?」 涙は流れてなかったのにそう訊かれた。 相良さんは腰の辺りで両手を広げて言った。 「おいで。」 勢いよく駆け出せばもう何も考えられなかった。 相良さんの胸にしがみついて泣いた。 タバコ臭くて優太と全然違う、男の人の匂いがした。 相良さんはただ黙って抱きしめていてくれた。 暖かくて心地よかった。 ひとしきり泣き終わると抱きしめられたまま訊かれた。 「イケメン彼氏と喧嘩でもした?」 私は首を振った。 「ママに怒られた?」 また首を振った。 「じゃあ、俺に会いたかったんだね。」 少し考えて首を振った。 相良さんが私を抱きしめたままフッと笑った。 だって私が好きなのは優太なんだもん。 それなのに何でここに来たんだろう。 私を抱きしめていた両腕が緩んで体が少し離れるとゴツゴツした指に頬を撫でられた。 その指にそのまま顎を上げられて キスされる。 そう思ったのに逃げなかった。 キスされながら相良さんの手が私の首の後ろに添えられてさらにキスが深くなった。 タバコの匂いがしたけど嫌じゃなかった。 私、さっきまで優太とキスしてたのにな。
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