佐伯綾

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優太と別れて、私が地元に残る理由なんてなかった。 ワーキングホリデーという制度を見つけて卒業後はオーストラリアへ行くことにした。 その制度を使えば現地で働くことができるから費用が抑えられるし、語学学校へ行くこともできる。 もともと海外で英語の勉強をしたかった私にはちょうどよかった。 ママは私が出て行くのを止めなかった。でも最後、 「あなたもパパと同じよ。」 冷たい目で言った。家を出る時見送りもなかった。 高校卒業までバイトは続けた。 相良さんには優太と別れたことを伝えた。 タバコをふかして「そっかー。」と言われただけだった。 「別れの理由に相良さんを使いました。」 「どういたしましてー」 と。それだけ。 でも二人で出かけるようになっていた。 車でドライブしたり、ご飯を食べたり。キスも毎回された。 車の後部座席にはかわいい柄の膝掛けがあった。 2人でいるときに電話がかかってきて女の人の声が聞こえることもあった。 好きだとか付き合おうとか言われたこともなかった。 そもそも相良さんは大学生ではなかった。正しくは中退していて21歳。コンビニ以外にも仕事をしてると言っていた。何の仕事か聞いたら…やっぱりはぐらかされた。 でもそんなこと気にならなかった。 ぽっかり開いた穴を今だけ埋められたらいいと思った。
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