前田花乃子

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私は前田くんと同じ地元の大学に進学した。 もう少し上のランクの大学も行けたけど、前田くんがいない大学なんて行く意味はないと思っていた。 先生や親には行きたい学科だからとかなんとか適当な理由を言った。 綾ちゃんは上京するとか、留学するとか話題にする人によって行き先が違った。結局卒業後どこへ進学したのかわからないままだった。 ただ地元に残らないということだけは確かなようだった。 大学生になった前田くんもやっぱりかっこよくてモテていた。 「あの人かっこいー!学部どこだろー?」 「私、同じ高校だった友達がいてその子にきいたら…。」 大学で前田くんを知った女の子たちのさわぐ声を聞くと誇らしかった。元クラスメイトというだけで彼女でもないのに。 大学は私服だから前田くんの情報が増した気がした。服装ってセンスとか好みとか前田くんの内側が表れていると思った。だからそれを知れることが嬉しかった。 今日もあの服着てる。気に入ってるのかなとか 最近アクセサリーをつけてるなとか 今日は新しい靴履いてるとか…。 前田くんはいつもおしゃれだった。 背が高くて顔が小さいから何を着てもモデルみたいに似合っていた。 そして、高校時代と大きく変わったこと…。 大学生になって、私は少しずつ前田くんと話すようになった。 同じ高校出身だからか、大学で会うと前田くんから声をかけてくれた。 大学生になってもやはり人に囲まれている前田くん。 一方、私は相変わらずひとりなことが多くて、実習のときとか人数合わせに声をかけてきたり、課題に行き詰まると「一緒にやろー」と言ってくるような「友人」しかいなかった。 そんな私に前田くんのような人が話かけるのだから周りにいた人たちはどう思っただろう。 でも「前田くんの友人」という称号を与えられたような気持ちで嬉しかった。 前田くんを探す人が 「岩瀬さーん、前田どこ行ったか知ってる?」 なんて聞いてきて、さも私が前田くんのことを知っていて当たり前みたいな雰囲気さえあった。 すると、自信のようなものが生まれ、前田くんと話すときにそれほど緊張しなくなった。 何しろこちらは一方的に見つめ続けていたので前田くんに対して完全に打ち解けているような身内のような感覚があった。
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