佐伯綾

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15年ぶりに実家で会ったママは驚くほど歳を取っていて別人かと思った。 でもマナを見て笑った顔は、私が小さい頃と同じだった。 パパが事故で死んで帰ってきたのは、私が家を出た5年後だったそうだ。 ママが正妻だったから全ての連絡がママにきて、遺体もママの家に帰ってきた。 パパは住所変更の手続きを一切していなかった。きっとたくさん不便もあったはずなのに。 パパにとってはママとの家が自分の家という思いがあったんだと思う。 「この家でパパの顔を見た時、最期には帰ってきてくれたんだからって、全て許せてしまったわ。」 とママは笑った。 だからお葬式にはパパの相手も呼んだそうだ。 「だけど綾には大事な時期に取り返しのつかないことをしてしまったと思ってる。」 涙を流してママが言った。 「だからあなたのこと助けさせて。私が奪ってしまった時間の償いをさせて。」 そう言われてどう答えていいかわからなかった。 「……助けてくれるの?」 そう訊くとママは大きく頷いて言った。 「帰って来てくれてありがとう。おかえり、綾。」 どうせ私には、他に頼るところがなかった。 あんなに離れたかったママしか。 でもマナを1人で抱えて途方に暮れて帰る決心をした。 駅に着いてもやっぱり引き返そうかと思ったくらい、帰ってくるのが怖かった。 でも帰ってきてよかった。 涙を流す私達を、何も知らないマナが不思議そうに見上げていた。
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