片想い、そして悠久

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<和輝side> 死んじゃったんだ……。 本当に離れ離れになっちゃったんだ……。 実感はなかったけど、本能的にそう感じとった俺は、少し冷たくなった智琉の手をベッドに戻して、先生のことを呼んだ。 俺の言葉に先生と看護師さんがすぐに来てくれて、智琉のことを診てくれたけど、ただ一言「智琉くん、よく頑張りましたね」と言って部屋を後にした。 やっぱり、智琉は天国に行っちゃったんだね……。 「智琉……」 まるで寝ているみたいに、智琉の顔は穏やかだ。 これを見ていたら、智琉が死んでるなんて信じられない。 でもどれだけ呼び掛けたって智琉からの反応はなくて、身じろぎ一つもしない。 軽く胸元に手を当ててみたけど、俺からは感じられる鼓動が、智琉からは感じられなかった。 「智琉……」 智琉と永遠に会えなくなってしまって、智琉と永遠に話せなくなってしまったのに、何故だか俺の目から涙がこぼれることはなかった。 何というか、何も考えられなかった。 ただただ、智琉を失ってしまったことが信じられなくて、受け入れられなくて。 次に橋本先生に名前を呼ばれるまで、俺はずっと智琉の屍の傍にいたと思う。        * 智琉が死んだことは先生から家族に伝えられたみたいで、気がつけば智琉の家族と俺の母さんが傍にいた。 ベッドの中で静かに眠っている智琉を見て、智琉の母さんは泣き叫んでいた。 何度も智琉の名前を呼んでいた。 智琉の父さんは、智琉の母さんの背中を撫でながら一緒に涙を流していた。 でも、どれだけ泣き叫んだって、智琉にはもう聞こえてないんだ……。 「智琉くん……」 俺の母さんも、我慢しようとしてたみたいだけど、瞳から涙をこぼしていた。 口元を押さえて、嗚咽だけは何とか堪えてるみたい。 家が隣だったってだけで沢山智琉のこと見る機会あったもんな。 母さんだって智琉との思い出が少なからずあるはずだ。 それなのにこんなお別れの仕方なんて……俺も含めてだれも望んでなかった。 「ねぇ、和輝くん」 「……はい」 「智琉は、最後どんな風だった……?」 智琉を看取ったのは俺だ。 だから、智琉の最期を知っているのも俺だけ。 智琉の母さんが智琉の最後について俺に聞くのもおかしくないんだけど、俺は直ぐに答えることができなかった。 俺の手を握って、俺に微笑みながら死んでいきましたなんて……。 なんか智琉の父さんと母さんには悪いような気がして。 「……笑顔、でした」 「…………」 「声は出せなくなってたから何も聞けてないですけど……智琉は最後、笑ってました」 「……そう」 俺のことを思って、とは言わないでおいた。 でも、間違ったことを言ってるわけじゃないから大丈夫なはず。 智琉は最後、間違いなく微笑んでたんだから。 苦しんだ顔をせず、笑顔で静かに眠れたんだから。 「頑張ったわね、智琉……」 ひとしきり泣いてある程度受け入れることが出来たのか、智琉の母さんは、最後は智琉の身体を撫でて何とか顔に笑顔を浮かべることが出来ていた。 俺や俺の母さんはそれを見ていることしかできなかったけど、時間が許す限り、みんなで智琉の傍にいた。 智琉が一人で寂しい思いをしないために。 離れてても、智琉のことが大好きなんだよって伝えるために。
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