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焼き付いて、見えなくなって、鮮やかに、仄かに、焦げ付くように、くすむように。
江川くんの髪の色は、変わっていく。
「夏に恋を頑張ろうって思うのはね」
まだ顔を伏せたままの江川くんの毛先に手を伸ばしかけて、指先が触れる前に離した。
触れたら、ほしくなる。
見ているだけでは足りなくなる。
葵を好きな江川くんに想いを伝えるのはいやだ。
応えてくれなくてもいいから、他の誰かを心の真ん中に置いている人には伝えたくない。
だから、はやく、はやくあきらめて。
「いちばん、置いてきやすいからなんだよ」
何気なく飛び越える31日と1日の狭間が、8月は一層深い。
そこに落としたら、もう手は届かない。
終わりと始まりをいちばん意識しやすい月だと思う。
ただ年を跨ぐような一月よりも、別れと出会いの四月よりも。
八月がいちばん、言い訳もたくさんできるからね。
「今日来たのは葵がいるからだよね」
「そうだよ」
「行かなくていいの。それなら、尚更」
一昨日、わたしが返事をするよりも先に江川くんが返事をしていた。
そして、江川くんよりもはやく葵が返信をしていた。
『行く』って二文字は、わたしが江川くんを真似る前に、江川くんが葵に倣っていた。
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