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花火を囲う輪の中に葵はいる。
高く結った長い髪、裾のデザインが変わったフレアスカート、ヒールのサンダル。
探せばすぐに見つかった。
海岸側から数えて三つ目のバケツに背中を向けているのが葵だ。
「行っておいでよ。花火の灯りに金髪って、ちょっと綺麗だと思う」
「……そう?」
「うん。きっと」
「じゃあ、行ってこようかな」
江川くんは、そうと決めたらすぐに行動に移してしまう。
そういうところが、好きだった。
わたしに向かってきてほしかった。
葵とわたしとの距離の真ん中辺りで江川くんは振り向いた。
大きく手を振って、わらって、誰かが持ってきていた打ち上げ花火が江川くんの背後に咲く。
赤、黄色、桃色、緑、青、紫、様々な色が金髪にじわりと滲んで、また夜の色を吸い込む。
わたしなら、どんなきんいろでも好きなのに。
変わらなくても、変わっていっても、好きなのに。
今年の夏にもこの恋は置いていけない。
いたみ、もどかしさ、息苦しさ、せつなさ。
それらはきっと、また来年の夏もわたしの胸にある。
次の夏。一年後の夏。高校最後の夏。
きっと、江川くんのきんいろはくすんでいない。
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